21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2008-01-01から1年間の記事一覧

町山智浩&柳下毅一郎『ファビュラス・バーカー・ボーイズの映画欠席裁判3』

ウェイン しかし本物のラリラリ俳優だけ集めてジャンキーの映画作るってすごいね。日本でもできるかな。そのまんま東と松崎しげるとロブ・ロウと極楽とんぼの山本出演で。 ガース なんの映画作るんだよ! そのタレントの共通点は麻薬の前科じゃないだろ! ウ…

11月23日付 新聞書評メモ

【毎日新聞】 池澤夏樹評 水村美苗『日本語が滅びるとき ―英語の世紀の中で』(筑摩書房) さて、日経新聞には水村氏じしんの随筆が載っていて、末期の母の介護とこの本を書くこと、が同時期であり結びついていたことが書かれていたが、なるほど池澤夏樹の書…

鹿島茂『オール・アバウト・セックス』

換言すれば、室井佑月の小説はどんなときでも「ほてって」いるのだ。(「売春しない理由」) 言葉は昇華すればするほど堕落する。むかし、「ごっつええ感じ」でダウンタウンの松ちゃんが言っていた表現を借りれば、「フリはきかせればきかせるほど自分が不利…

池波正太郎『散歩のとき何か食べたくなって』

性の蘊蓄にはすぐ鼻をつまんでしまうのだが、わりと食についてはとやかく言われても平気である。これは、『ミスター味っ子』を読んで育ったせいかも知れないし、あるいは、食はバタイユが語っていないからかも知れない。 さて、本気で食欲をそそる池波正太郎…

森永卓郎『年収崩壊』

お金に関する新書三部読み、第二段。年収300万円時代という言葉を創出した、森永先生の新書だが、売れた後の本だからか、下記の勝間氏の本に比べて押しは弱い。所得格差の拡大によって結婚するメリットがなくなった、あるいは結婚することができなくなっ…

鹿島茂『フランス歳時記』

フランスを知るために、ということで読みはじめた一冊。月ごとの章立て、その中で、季節に関するエッセイ+各月にまつわる守護聖人の紹介+各月にまつわる有名人の紹介、とメジロオシの内容。しかし、自分でもただの無害な変態と認識していたサドが、死刑判…

10月19日付新聞書評メモ

しばらくご無沙汰しました。どうしても、毎日新聞の書評に出ていた下記の本が欲しいのですが、Amazonでも売ってません。どこで買えるんですかね。堀江敏幸評 『雪の宿り −神西清 小説セレクション』(港の人)ちなみに神西清はチェーホフなどの翻訳で有名な…

勝間和代『お金は銀行に預けるな』

かならずしもこの人の言っていることに納得できるわけではないのだが、自分の言いたいことを確固として持ち、社会を変えていこうという発想のもと、これだけ分かりやすい概説書をものした、ということは尊敬に値する。まちがいなく名著である。ちなみに、銀…

内田樹『街場の現代思想』

もう10日くらい前なのですが、内田樹の『街場の現代思想』を読みました。だから内容はもうほとんど忘れているのですが、模擬人生相談形式で、仕事について、結婚について、大学について、なやましいことの数々を非常に常識的にこたえる本であったと思いま…

馳星周『不夜城完結編 長恨歌』

やあ、20そこそこのオレ、元気かい? キミは気分が鬱になると、馳星周の小説を読む性癖があるね。とくに『不夜城』は、ドラマチックかつ人間不信度合いが全開で、お気に入りだね。そんなに世の中が信用できないのかな? そんな『不夜城』もついに完結編の…

寺山修司『書を捨てよ、町へ出よう』 第四章

アレクサンドル・ブロークとアンドレイ・ベールイは、隣りあわせに住みながら書簡を交わしていたと言います。ですから僕が、架空のあなたに手紙を書く形でブログするのも、赦されていいことのように思います。なぜ架空のあなたに書くかと言えば、『デトロイ…

伊坂幸太郎『重力ピエロ』

帰省している間、携帯で更新していたのですが、カテゴリ分けなどうまく編集できない部分が残ってますね。 それはさておき、『重力ピエロ』は、宮部みゆきの『クロスファイア』に似たテーマ性を持つ作品と言えるだろう。だが、イマイチ感情移入できないのは、…

A.エルキンス『古い骨』

ブルターニュに邸宅を持つ、老ギョーム・デ・ロシュは遺言を残すべく、一族郎党を集めた。しかし、その家族会議が始まる前に、彼はモン・サン・ミッシェルの浜辺で溺死してしまう。そしてロシュの地下室からは、ナチスに関係あるらしい古い骨が出てくる。た…

安岡章太郎『15の対話』 対話七「日本人は生き残れるか」

ずっと「つまみ読み」をしてきた一冊だが、お盆で時間ができたので、通し読みにチャレンジ。だが、「積ん読」にしておいて五年あまりにもなる本だけに、読むこと自体にすこし歴史が発生している。 さて、タイトルを見ればわかるように、この本は安岡章太郎の…

東野圭吾『容疑者Xの献身』

ドストエフスキーが描こうとした「もっとも美しい人」ムイシュキン公爵は、必ずしも完璧に美しくないからこそ、美しかった。東野圭吾が描こうとした完璧な愛は、数学のように一点の曇りもないからこそ、うさん臭い。 いきなり暴言を吐いてしまったが、この作…

Ⅰ.マキューアン『贖罪』 第三部

人間とは、まず第一にひとつの物体であって、たやすく裂けるが修復は難しいのだ。(下巻192ページ) 第一部でマキューアンが描いたドラマが、できそこないのパロディのようなものであるとしたら、第二部の戦場、第三部の病院を描くこの筆は一体なにものによ…

I.マキューアン『贖罪』 第一部

姉もまた、意識と動作が形作る、砕ける寸前の波のような境界線の後ろに本当の自分を隠し持っており、顔の前に指を立ててそのことを考えこんだりしているのだろうか。人はみなそうなのだろうか、たとえば父親は、ベティは、ハードマンは? 答えがイエスである…

篠田節子『聖域』

久々にエンターテイメント小説を読んで、読むのがやめられないという体験をした。けれども、篠田節子の『聖域』に、特別な登場人物はあらわれない。退職したアル中の編集者、篠原の荷物を整理していた29歳の実藤は、「聖域」と題された未完の原稿に出逢う…

PLAYBOY9月号 『詩は世界を裸にする』

齢30にして洋ピンに目覚めたわけではない。ただ白の大判の上質紙に詩のことばが踊っている場面にはエロティシズムを感じる。普段せまい空間に押し込められている言葉が(別に思潮社が悪いわけではないけれど)、大きな場所にのびのびしている、というだけ…

周達生『世界の食文化2 中国』 第三章

ふだん、二段ベッドの位置にあるところで寝ている(下の段は本棚)ので、足を怪我している間は床にフトンを敷いて寝ていた。そんなわけで、いつも寝る前に読んでいたこの本、およそ二箇月ぶりの登場となる。 「虫宴は成立するのか」と題された第三章の一部は…

杉浦日向子とソ連『もっとソバ屋で憩う』 (二)

坦々麺はもともと天秤棒に「担」いで売りにきたのがはじまりで、労働者のスタミナ食だったらしい。東南アジアの屋台食はじめ、露店のファーストフードにはスタミナ食が多い。しかし、江戸の露店食ソバは明らかにスタミナ補給に向いていない。杉浦日向子氏は…

杉浦日向子とソ連『もっとソバ屋で憩う』

ひたすらうまいソバ屋を紹介し、午後2時から昼下がりを憩うべきことを喧伝する書物。文体がすべて同じなので、途中まで全部杉浦日向子が書いているのだ、と思っていたが、よくよく見れば共著であった。それよりもなによりも、「ソバ屋」という中途半端な表…

A.ベンダー『燃えるスカートの少女』 第五話「マジパン」

彼はきみはいまでもおれの物か? 俺はいまでもきみを愛しているけれど、きみはおれを愛しているの? と訊いた。それで私は、私はあなたの名前すら知らないしそれをいうなら姓だって知らないし、それにあなたは私たちの愛を海にぽちゃりと落としちゃったんだ…

7月27日付 新聞書評メモ

【日本経済新聞】 ☆高山宏評 ミシェル・ド・セルトー『ルーダンの憑依』(矢橋透訳 みすず書房) かなり古い本。そして「アナール学派」という名前は昔から聞きながら、その実何なのかよく分からない学派の本らしい。だがもともと同一のものだった「ファクト…

A.ベンダー『燃えるスカートの少女』 第三話「溝への忘れ物」

彼女は指のあいまから土をはらはらと積み重ねたセーターの上に降らせた。土は脇にこぼれ、ゆっくりと穴の空間をみたし、カラフルな袖を覆っていった。死んだセーターたち、と彼女は考えた。なんだか笑える、こんなことになるなんて。(41-42ページ) エイミ…

7月20日付 新聞書評メモ

【日本経済新聞】 ☆郷原信郎評 細野祐二『公認会計士VS特捜検察』(日経BP社) 粉飾会計事件に関わったとされる会計士が書いた本、で、このタイトルとなれば『国家の罠』的なものを想像してしまう。あそこまで、大上段に振りかぶれているだろうか?☆富山太佳…

倉田英之『倉本 倉田の蔵出し』 第四章

倉田さんというのは、アニメの脚本とかライトノベルとかを書いている人らしいのだが、どちらにも興味がない私にとっては縁が薄い。(余談だが、中学生くらいから、アニメのなにかと線の細い感じが気持ち悪くなって、全然見なくなってしまった。大好きな「グ…

J.D.サリンジャー『九つの物語』 第六話「エズミに捧ぐ」

ホテルにはニューヨークの広告マンが九十七人も泊り込んでいて、長距離電話は彼らが独占したような格好、五〇七号室のご婦人は、昼ごろに申し込んだ電話が繋がるのに二時半までも待たされた。(「バナナフィッシュにうってつけの日」) ふらふらしたところに…

J.D.サリンジャー『九つの物語』 第三話「対エスキモー戦争の前夜」

それは相手に聞こえたと見えて、彼は左足を窓際の腰掛にのせ、水平になった腿の上に怪我した手をのせた。そしてなおも下の通りを見続けていたが、「奴らはみんな、徴兵委員会へ行くとこなんだぜ」と、言った「こんだエスキモーと戦争するんだ。知ってるか、…

柳下毅一郎『興行師たちの映画史』 第四章

本書の最も重要な主人公は、トッド・ブラウニングである。カーニバルの旅芸人ブラウニングは、ヴォードヴィル、コメディ舞台の世界で名をあげ、やがて映画の世界に入るが、交通事故により芸人としての人生を終え、映画監督となる。はぐれものたちの鬱屈と哀…