21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

杉浦日向子とソ連『もっとソバ屋で憩う』 (二)

 坦々麺はもともと天秤棒に「担」いで売りにきたのがはじまりで、労働者のスタミナ食だったらしい。東南アジアの屋台食はじめ、露店のファーストフードにはスタミナ食が多い。しかし、江戸の露店食ソバは明らかにスタミナ補給に向いていない。杉浦日向子氏は、『一日江戸人』でも屋台のソバ屋に触れているが、このときは夜長を楽しむ江戸人の夜のおやつ、という結論だった。しかし、本書ではいささか違う論理が展開される。

江戸は、武士と職人の町だった。迅速な動きが肝要だから、食事は手軽で身が重くならないものに嗜好が寄る。(150ページ)

村上春樹作品の主人公が多用する、「そうかも知れない」というセリフを、ジェイ・ルービンの英訳で読んだら「kind of」と訳されていたが、夜中終電で帰って立ち食いソバを食べるときは、「手軽で身が重くならない」という言葉にそうかも知れない、と思う。ただまあ、どちらの結論もなにかしらの「kind of」であることは間違いない。