21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

A.チェーホフ『ワーニャ伯父さん/三人姉妹』 「ワーニャ伯父さん」

嫌いだな、そういう哲学。(33ページ) 私がいまの会社に入るのを決めたとき、読んでいたのが車谷長吉の「漂流物」で、そのなかのひとりの登場人物が、「入社式のとき、『ああこれでおれの人生は終わった』、と思った」と言っている。今回、この「ワーニャ伯…

J.ラヒリ『停電の夜に』 第3話「病気の通訳」

ほんの一瞬でいいから、ぴたりと停止した抱擁を、わが神像に見てもらいたいという気持ちに駆られた。(98ページ) 人間は身勝手な生き物で、病院で病人の通訳をしているカパーシーの身勝手な妄想と、旅行者の奥さんの身勝手な告白がからみ合うことによって、…

『桂米朝コレクション2 奇想天外』 「地獄八景亡者戯」

「幽霊のラインダンスに骸骨のストリップやて。……何を見せまんのやろなァ」「じごくばっけいもうじゃのたわむれ」と読む。おどろおどろしい題名だが、閻魔の法廷にたどり着くまでの道中を書いた滑稽譚である。おなじ文庫のシリーズの、このあいだの志ん朝が…

J.ラヒリ『停電の夜に』 第2話「ピルザダさんが食事に来たころ」

口に入れ、ぎりぎり待てるだけ待ってから、やわらかくなったチョコレートをゆっくり噛んで、ピルザダさんの家族が無事でいますようにと祈ったのである。(56ページ) "When Mr.Pirazada Came to Dine"というような題名のつけ方はアメリカ人の発明なのか。た…

ダイジェスト版

さて、仕事がどんどん忙しくなってまいりまして、また日本にも5日くらいですが帰っていたもので、書けずにおります。ほんの僅かですが、ここに書いた以外にも読んでいるので、まとめて紹介させてもらいます。 異国に暮らす者として、捨て置けないのは黒田龍…

永井荷風『ふらんす物語』 「船と車」

例えば、見渡す広い麦畑の麦の、黄金色に熟している間をば、細い小道の迂曲して行く具合といい、已に収穫をおわった処には、点々血の滴るが如く、真っ赤な紅罌粟(コックリコ)の花の咲いている様子といい、または、その頂まで美事に耕されて、さまざまの野…