21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

3月30日付 新聞書評メモ

【日本経済新聞】☆編集委員 浦田憲治評 『文学界』四月号 新旧の作家を集めた、「ニッポンの小説はどこへ行くのか」という座談会を収めているという。タイトルからも、記事を読んでも、ありきたりな内容しか想像されないが、そこは書評の妙で、これを同じ『…

望月実、花房幸範『有価証券報告書を使った決算書速読術』 第二章

これまでに読んだ会計の本の中で一番読みやすい。(正直、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』とかは、簡単に書かれすぎていて、逆に何が言いたいのかよく分からない)。書いてあることは、決算書を読むのに数字のところばかり読んでいても、会計士だってなか…

試験

携帯よりの試験更新です。

T.カポーティー『ティファニーで朝食を』

一九四三年十月の月曜日。空を飛ぶ鳥のように浮き立った美しい火だった。僕らはまずジョー・ベルの店でマンハッタンを飲んだ。僕のめでたいニュースを耳にすると、彼はシャンパン・カクテルをごちそうしてくれた。そのあとで僕らはぶらぶらと五番街まで歩い…

山田均『世界の食文化5 タイ』 第三章

むかし景山民夫のエッセイの中に、中華料理を食べに行くなら大人数を集めなければならない、というのがあったが、本書の第三章では、五〜七人でタイ料理を食べるヴァーチャルの旅ができる。中部タイ(バンコク)、北タイ、東北タイ、南タイの四か所の料理を…

J.M.クッツェー『マイケル・K』 第二章

彼はまるで石だ。そもそも時というものが始まって以来、黙々と自分の仕事だけを心にかけてきた小石みたいだ。その小石がいま突然、拾い上げられ、でたらめに手から手へ放られていく。一個の固い小さな石。周囲のことなどほとんど気づかず、そのなかに、内部…

山田均『世界の食文化5 タイ』第二章

最近、食文化一般に興味があるのはさておき、ともかく、トムヤンクンとグリーンカレーが好きだ。だから、この本を読んだのだが、校正・考証ともに緻密に考え抜かれた、非常にエキサイティングかつ、刺激的な本である。 まるで吉田修一の小説を読んでいるかの…

3月23日付 新聞書評メモ

【毎日新聞】 ☆小西聖子評 E・S・ヴァレンスタイン『精神疾患は脳の病気か?』(中塚公子訳 みすず書房) 「向精神薬の科学と虚構」というサブタイトルがついている。ミシェル・フーコーの『精神疾患とパーソナリティ』を引くまでもなく、精神疾患はかなら…

J.M.クッツェー『マイケル・K』 第一章

「特徴は、遠景にロビンソン・クルーソーを配しながら、引っかけとしてカフカの作中人物を思わせる「K」という文字を使ったこと、病院の食べ物を食べずに痩せ衰えていく主人公マイケルを「治療」しようとする若い医師を第二章の語り手として登場させたこと…

古井由吉『白暗淵』 第十一話「潮の変わり目」

どこぞで続いていた工事の鳴りをひそめた際でも、表の通りの車の往来がまれに途切れる隙(ひま)でも、音の変わり目の内に悟りの境はあり、したがって人はいつどこででも悟れそうなものの、そなわるのは悟りの下地ばかりで、中身はたいてい空白のままに留ま…

古井由吉『白暗淵』 第九話「餓鬼の道」

ある夜の寝覚めには、わなわなと両手を伸べる子供の姿が見えて、間違いなく幼い自分の、あたり一帯の焼き払われた夜の城見かける頃に道端に坐りこんでいると行きずりの避難者の女性から恵まれた、握り飯を受け取る姿にほかならず、ああして手を差し出してい…

3月16日付 新聞書評メモ

今週はけっこう書評欄が当たりです。【毎日新聞】 ☆池澤夏樹評 エンリーケ・ビラ=マタス『バートルビーと仲間たち』(木村榮一訳 新潮社) またまたラテンアメリカ文学だが。何者でもあるまいとして生きる、メルヴィル作品の登場人物バートルビー。そのバー…

古井由吉『白暗淵』 第六話「白暗淵」

文学というのは、カジュアルな話題に向かない。そもそも、同じ読書体験を共有している人を探すのが大変だし。興味もない人を前に、深刻な顔をして知識を垂れ流すのも気色悪い。やはりサラリーマンの話題の王道はプロ野球だろう。と、いうわけで、文学の話は…

古井由吉『白暗淵』 第一話「朝の男」

街は躁がしいようで実は無音の境に入りつつあるのではないか(「地に伏す女」) 期待して読みはじめた古井由吉の連作短篇の、ひとつのテーマは「音」、あるいは「無音」であるようだ。世界は乱雑な音に満ち溢れているようであっても、その実沈黙している。そ…

多谷千香子『「民族浄化」を裁く』 第三章

アメリカ大統領選の陰で、ほとんど無視されているようなニュースではあるが、セルビアのコソボ自治州が2月17日に独立を宣言した。アメリカは賛成しているが、ロシアやスペインなどは反対している状況であり、当事国セルビアでは、独立に対する賛否が一致…

I.マキューアン『土曜日』 第四章

そろそろ始まるテレビニュースが引力のように誘惑するのだ。世界との関係を絶やしたくないという衝動、全世界を覆う不安の共同体の一員となりたいという衝動は現代の病だ。ここ二年でその習慣はいっそう強まり、生産克視覚的衝撃の大きい場面が繰り返される…

3月9日付 新聞書評メモ

【毎日新聞】 ☆小島ゆかり評 『雨の言葉 ローゼ・アウスレンダー詩集』(加藤丈雄訳 思潮社) 前世紀の過酷な時代を生きた、ユダヤ系ドイツ詩人による詩集。まったく未知の人だが、書評に引用された詩が美しいので心惹かれる。☆富山太佳夫評 カルロ・コルド…

J.M.クッツェー『ペテルブルグの文豪』 第十八章

しかしチェルヌィシェフスキーの向こうには福音書がある。イエスがある――一団の弟子を集め、死の使いに彼らを走らせる無神論者ネチャーエフの偽物と同じくらい、独自に鈍く堕落したイエスの偽物がある。かかとの周りで踊る下劣男の群れを引き連れた笛吹き。…

吉本佳生『スタバではグランデを買え』 第七章

本書の第七章は、どうにもルサンチマンの香りがするが、それでも(それだけに)一番読みがいのある章である。「比較優位」という言葉をテーマに、「仕事の割り振り方」を書いている。 「仕事のできる人」と「仕事のできない人」が、「単純作業」と「センスの…

I.マキューアン『土曜日』 第一章

高価な車と同じで、脳というものは精巧だがやはり大量生産品であり、六十億個以上が現在出回っている。(第二章) イアン・マキューアンの『土曜日』の第一章は、「土曜日という不思議なオブローモフ」について書いた章である。常人の十倍くらいのスピードで…

奥田英郎『空中ブランコ』

『キン肉マン』という作品にこめられたメッセージが、「友達を大切にしよう」であるように、奥田英郎『空中ブランコ』にこめられたメッセージは、「がんばらなくていいよ」である。空中ブランコのフライヤー、ヤクザ、医者、プロ野球選手、女流作家といった…

J.M.クッツェー『ペテルブルグの文豪』 第十五章

そのとおり、私はコペルニクスではない。天を見上げても私には、我々が生まれたときに我々を見おろしていた、そして我々が死ぬときに我々を見おろしているであろう星が見えるのみだ。我々がどういう風に変装し、隠れ住む地下室がどんなに深かろうと、関係な…

3月2日付 新聞書評メモ

【毎日新聞】 ☆若島正評 フリオ・コルタサル『愛しのグレンダ』(野谷文昭訳 岩波書店) 淡々としたボルヘスに対し、情熱的なコルタサル、とする書評がとても面白く、この幻想短篇集を読みたくさせる。しかし、最近の書評欄には、南米文学の書評が充実してい…

吉本佳生『スタバではグランデを買え』 第五章

疑問形、命令形タイトルのビジネス本は多々あるが、不思議なことに、そのタイトルのくだりは面白くないことが多い。本の内容云々より、タイトルそのものが(本を販売する)マーケティングの現実の中にあるからだろう。 ただ、この本に関してはタイトルの章は…