21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2008-04-01から1ヶ月間の記事一覧

J.M.クッツェー『夷狄を待ちながら』 第四章

日常生活の孤独から独房の孤独へと移行するくらいのことは、思考と記憶の世界を失わずに持ち込めるかぎり、たいしてつらい刑罰ではない。しかしいまになって、自由とはいかに根本的なものであるかを私はようやく理解しはじめている。(194ページ) 父親の目…

4月27日付 新聞書評メモ

さて、ブレイクスルー。出版界もゴールデンウィークに向け、仕事を急いだのか、読みたい本が書評に集まってきた。ここのところ本を読むこと自体が不調だったが、これでまたどしどし読めるかも知れない。【毎日新聞】 ☆堀江敏幸評 蜂飼耳『転身』(集英社) …

現代詩文庫141 『野村喜和夫詩集』

直立してむしろ私は私の空間をつくらなければ と思った 陽のように射すそれと 射される地のおもてとのあいだで (「私のかわいいエイリアン」) マイ・ブラッディ・バレンタインの「LOVELESS」というCDを聴きながら昼寝をすると心地よい。その寝やすさ、心地…

村上春樹『東京奇譚集』

たぶん21世紀を代表する作家のひとりである、村上春樹の短篇小説集なのだが、正直なところ非常に単純な怪談話である。それは、ドッペルゲンガーだったり、幽霊だったり、神隠しだったりするが、とくにこれといった展開もなく、普通に物語が終わっていく。…

4月21日付新聞書評メモ

【毎日新聞】 ☆自著評 いしかわじゅん『漫画ノート』(バジリコ) 漫画家による漫画評。『失踪日記』の吾妻ひでおへのインタヴューが中心というところが心をひく。☆小西聖子評 岩切正介『ヨーロッパの庭園』(岩波新書) 大規模な庭園というものは権力と無縁…

ロッキンオン編集『rockin'on BEST DISC500 1963-2007』 第三章

このブログも含め、批評というものは悪意とは無縁ではありえない。たいていは実作者でないひとが、実作者の才能と成功を羨望し、嫉妬し、その作品をばらばらにしたり、誹謗中傷したり、晒しものにしたりしながら、抑え切れないルサンチマンを吐露することが…

ロッキンオン編集『rockin'on BEST DICS500 1963-2007』 第一章

ロックは時代を映す鏡である。今もそうかどうかはわからないが、ロックが時代を映す鏡でないところが、時代を反映しているのかも知れない。 伊良部先生のところの看護婦さんも読んでいるという、洋楽誌『ロッキンオン』がはじめて編集したというディスク・ガ…

4月13日付新聞書評メモ 

なんだかここのところ、書評不作なのだが。【毎日新聞】 ☆湯川豊評 池澤夏樹『星に降る雪/修道院』(角川書店) 文学全集のみならず、池澤夏樹氏が最近旺盛に仕事をしている。最近の本は全く読んでいないのだが、厚みのある本を見るにつけ、現代でも重要な…

岡田斗司夫『いつまでもデブと思うなよ』

比較的、流行ものとマスコミに流されやすいたちなので、こういう本読んでしまう。体脂肪率も高くなってきたので、それを抑制する意図もあったりして。 内容は非常に明確で、会社経営でも悪化すれば、数的記録をチェックして悪くなった原因を探すのが当然なの…

畦地裕、岡田邦生、芳地孝之、中居孝文『ロシアビジネス成功の法則』 第三章

ロシアビジネスに関するマニュアル本というよりは、経済、歴史、社会まで、ビジネスマン向けのロシア概説本と考えた方がよいだろう。わずか230ページほどの本だが、記述はわかりやすく、短い時間で正確な知識を得るのに適している。 第三章はとくに読みがい…

J.バーンズ『イングランド・イングランド』 第二章

だが、たとえ起こらなかったにせよ、そのイメージとその瞬間は賞賛しなければならない。そこにこそ、人生の大切な細部があった。(233ページ) 謎の敏腕経営者、サー・ジャック・ピットマンの早期退場。イングランドの中にできたイングランド、テーマパーク…

4月6日付 新聞書評メモ

今週は日経に、『バートルビーと仲間たち』、毎日に『土曜日』と『転生夢現』が出た。しかも早く出た(すでにこの欄に書いた)方の書評の方が優れており、散々な状況だったと言える。【毎日新聞】 毎日新聞書評欄の評者が微妙に変わった。☆山崎正和評 喜志哲…

J.バーンズ『イングランド・イングランド』 第一章

じつは単純な楽しみなどもはや存在しないことを知ってもいた。一切れのコールド・マトン・パイを楽しみにしつつメイポールの周囲を回りながら踊る乳しぼり娘とその恋人など、もはや存在しない。とっくの昔に工業化と自由市場がすべてを葬り去ってしまった。…