21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

Alaa Al Aswany "The Yacoubian Building"(1)

"Would you be willing to write disclaimer?" "A disclaimer?" "That's right. I'll agree to publication if you write a disclaimer in your own handwriting condemning what the hero of the novel says about Egypt and the Egyptians." "Very well."(…

(1)カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』 2005年、英国

20世紀という時代には、ロボットはおろか山椒魚まで、抵抗し叛乱を起こす存在だったのである。だが21世紀には、おそらく「叛乱」というテーマがそぐわない。 ヘールシャム、という寄宿学校では、臓器移植のために生み出されたクローンたちが育てられている。…

(0)カタログの選定にあたって

このブログもはずかしいタイトルがついている以上、なにかしら「研究所」らしきことをやらねば、という気になった。すくなくとも読者様に、自信を持ってお勧めできる作品を提示するくらいのことがあっていい。ただしあまり無責任になってもよくないので、1…

Kazuo Ishiguro "Never Let Me Go"

「いいこと教えようか、キャス。ヘールシャムでサッカーをやってたときな、おれには一つ秘密があった。ゴールを決めるだろ? そうしたらこういう恰好で振り向いてな……」トミーは歓喜のポーズで両腕を突き上げました。「で、仲間のところへ駆け戻るんだ。わけ…

村上春樹『1Q84』 BOOK1第9章「(青豆)風景が変わり、ルールが変わった」

もし人生がエピソードの多彩さによって計れるものなら、彼の人生はそれなりに豊かなものだったと言えるかもしれない。(第8章) さて、日本で話題になっている、のかどうか本当のところは見てないから定かではないが、とにかく『1Q84』を借りることがで…

水村美苗『日本語が亡びるとき』 六章

ケヴィン・ケリーが描く理想郷は、実は、理想郷どころか、情報過剰の地獄である。(247ページ) まったくない、というのは危惧すべきことだが、あまりない、というのは意外に愉しいものだ。 段ボール箱いっぱいの未読の本、そして2〜3箱のお気に入りの本と…

水村美苗『日本語が亡びるとき』 一章

そして、読む快楽を与えない文章は文章ではない。(六章 インターネット時代の英語と<国語>) このブログでは、できるだけ「随筆」というカテゴリ分けをしないでおいたのだが(だいそれた理由はないが、どのような雑文でもゴミバコ的に入ってしまいそうだ…

A.ベンダー 『私自身の見えない徴』 序章

「それなら」とおとうさんがいいました。「こういうのはどうでしょうか。うちはみんながそれぞれ体の一部を提供します。それをぜんぶ合わせれば、ちょうどひとり分が町から消えるのとおなじことになる」(7ページ) "An Invisibile Sign of My Own"の翻訳と…

堀江敏幸『雪沼とその周辺』 第二話「イラクサの庭」

雪は好きなのに雨が苦手なんて、妙なことでしたな。(46ページ) 徹底的に研ぎ澄まされた聴覚の後は、味覚の話。東京での料理教室を閉めて、フランスの匂いを田舎町に持ち込みながら、ちいさな料理店兼教室を開いた小留知先生の、突然の死のあとの町の人びと…

安藤元雄・入沢康夫・渋沢孝輔編『フランス名詩選』 17「みずうみ」

「おお、時間よ、飛翔をとどめよ。おまえたち、 幸福の刻一刻よ、あゆみをとどめよ。 わたくしたちの一生でもっとも美しい日のつかのまの愉悦を、 心行くまで味わわせておくれ。 (アルフォンス・ド・ラマルチーヌ「みずうみ」) カタログとか、名詩選とかを…

堀江敏幸『雪沼とその周辺』 第一話「スタンス・ドット」

ただひとつ確かだったのは、ハイオクさんの投げた球だけが、他と異なる音色でピンをはじく、ということだ。ピンが飛ぶ瞬間の映像はおなじなのに、その一拍あと、レーンの奥から迫り出してくる音が拡散しないで、おおきな空気の塊になってこちら側へ匍匐して…

ダイジェスト版

さて、前にも書いたかも知れませんが、五月末から海外駐在となっております。休みの日など、他にすることがないもので、本はけっこう読んでいるのですが、なかなか落ち着いて感想文をしたためる機会もありません。結果、赴任後6回しか更新していない有様です…