21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

E.ブロンテ『嵐が丘』 第三十三章

『いま一度あいつを腕に抱こう! 冷たくなっていたら、俺が凍えているのはこの北風のせいと思い、動かなければ、眠っているんだと思おう』(第二十九章) ある一定の時期まで、小説にはたしかに二つの機能が存在していて、『嵐が丘』は最も成功した作品のひ…

E.ブロンテ『嵐が丘』 第十五章

奥様は三日目に、ようやく寝室のドアの錠をはずしました。水差しとデキャンターの水を飲み干すと、もっと注いできてと云い、オートミールのお粥も所望されました。自分は死んでしまうに違いない、と云うんです。ははあ、これはエドガー様に聞かせたい台詞だ…

E.ブロンテ『嵐が丘』 第九章

「入っておいで! 入っておいで!」と云って、すすり泣く。「キャシー、さあ、こっちだよ。ああ、お願いだ――せめてもう一度! ああ、わが心の愛しい人、こんどこそ聞き届けておくれ――キャサリン、今日こそは!」(第三章) ヒースクリフというのは不思議な主…

雑感:ロシア語マンガ事情

アメリカとかフランスで日本のマンガが受けている、というのはよく聞く話なのだが、さてロシアではどうか、という話になると、英語から重訳されたらしきポケモンやセーラームーンがむかし流行っていたものの、今はそんなに有名ではない、というのが公式回答…

堀江敏幸『回送電車』 「リ・ラ・プリュス」

フィルターなしのゴロワーズやジタンを喫むくらいなら自分で巻いたらどうだ、とありがたくもない忠告をしてくれたのは、そのころパリでよくつきあっていたモロッコ人の友人だった。(218ページ) 『回送電車』の第四部には様々なものに関する想い出、愛着が…

"Best European Fiction 2010" [Austlia] A.Fian from "While Sleeping"

We'd just begun putting them together when word came that these boxes were actually urns in which, after we'd been killed and cremated, the ashes of each prisoner would be stored (BOXES) はじめて外国旅行に出かけたのは北京で、それは若干バブ…

堀江敏幸『回送電車』 「裏声で歌え、河馬よ」

しかし私は気づいたのである。ボールの受け渡しがその場限りのルールだったとしたら、もう二度とあの光景に出会うことはないのだ、あの芳しい小宇宙は永遠に失われてしまうのだ、と。なにか途方もない損失の訪れをいくらかでも引き延ばすために、いまや胸の…

堀江敏幸『回送電車』 「誕生日について」

そもそも書き手の力量や資質は、他者の作品の梗概を書かせてみれば一目瞭然なのであって、愛も理性も感受性も、そこでは残酷なまでにはっきりと示されてしまうのである。(「梗概について(正)」) そもそも小説でも評論でもエッセイでもなく、時刻表のはざ…

M.クンデラ『無知』 第26章

というのも、祖国という概念そのものが、この言葉の高貴で感情的な意味では、私たちが他の国、他の国々、他の諸言語に愛着を覚えるにはあまりにもわずかの時間しかあたえてくれない、人生の相対的な短さに結びついているからである。(第34章) 『無知』の…

M.クンデラ『無知』 第39章

だが未来、それは作曲家たちの亡骸が枯葉と、もぎ取られた枝のあいだに漂っていた大河、音の洪水だった。ある日、荒れ狂う波のうえで揺すられたシェーンベルクの死体がストラヴィンスキーの死体にぶつかり、遅すぎた恥ずべき和解をしながら、ふたりとも虚無…

M.クンデラ『無知』 第3章

記憶がうまく機能しうるためには不断の訓練が必要であることに気づくなら、ひとはそんな奇妙な矛盾も理解できる。友人同士の会話のなかで何度も何度も言及されなければ、想い出は消え去ってしまう。(第九章) 思えばミラン・クンデラを一生懸命読んでいたの…

雑感:文体について

のっけから宣言すれば、プロの書評家ではないので、このブログを書くときに、紹介する本の文体を無意識にマネしてしまっていることは自覚しているけれど、直すつもりはない。でも、さすがに前の村上春樹の項を書いたとき、自分が書いた文章と、その下に引用…

『稲盛和夫の実学』 第三章「筋肉質の経営に徹する」

私が言う人間として正しいこととは、たとえば幼いころ、田舎の両親から「これはしてはならない」「これはしてもいい」と言われたことや、小学校や中学校の先生に教えられた「善いこと悪いこと」というようなきわめて素朴な倫理観にもとづいたものである。(…