21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

経済小説マストリード100を作る(20年第二四半期報告)

 コロナの自粛中は御多分に漏れず私もSNSを見る機会が多かったわけだが、時折、「文学プロパーの人って程度低いのかな」と、暗澹たる気持ちになることがあった。

 たとえば「人の命と経済とどっちを優先するんだ」という主張を、けっこう頭がいいと思っていた教授の人とかがしていたのだが、経済と生活はほぼ同義なのだから、それと人の命を分けて考える意味が分からない。感染対策と経済対策と、どちらが生活を守る上で有効か考える、というのが本来で、国民のことを考える時間が短そうな安倍さんですら、家で犬と戯れていない時はその軸で考えていると思うのだが。

 また、「オリンピックなど止めてしまえ」と軽々に言う作家も多かった。「冷静に考えて、来年の開催は難しい」というのなら分かるのだが、ほぼ「リア充爆発しろ」みたいな感覚で言っている。「本屋がクラスタになるから、紙の本の販売は全て差し止めて、電子書籍のみでよろしく」くらいの暴力的な発言なのだが、その辺自覚している様子はない。

 だからというわけでもないけれど、経済のお勉強中。とはいえマルクスケインズも買っただけでまだ読めていないですが。

 小説の方は新たに7冊。まだ基準確立したとは言い難いが、小説としての面白さ50、経済的思考の面白さ50くらいで星もつけてみる。(だからミステリの時と同じ本でも評点が違う可能性はある)

 

村上龍希望の国エクソダス』(2000年、文春文庫)★★★★★

橘玲『永遠の旅行者』(2005年、幻冬舎文庫)★★★★☆

幸田真音『日本国債』(2000年、角川文庫)★★★★

島田雅彦『悪貨』(2010年、講談社文庫)★★★☆

高杉良『呪縛 金融腐食列島Ⅱ』(1998年、角川文庫)★★★☆

幸田真音『バイアウト』(2007年、文春文庫)★★★

※年代は文庫版ではなく単行本発行年

 

 やはり『希望の国エクソダス』が抜群だった。思考実験の厚みが他の作品とは比べものにならず、とくに新自由主義が日本に本格的に入ってくることの精神的影響について、主人公の恋人が語る懐石料理のくだりは抜群だと思う。十四歳の革命家たちもそんなにキッチュにならずに描かれているので共感できるし、希望というワードが、これが書かれた今世紀初頭から現在まで刺さりまくる。村上龍と経済との関わりはその後カンブリア宮殿になってしまったが、またこういう作品書いてほしいなあ。

 『永遠の旅行者』もある種の革命家もので、幼い頃「大誘拐」の映画にハマった身には刺さる。『ハゲタカ』にも似たような要素があるが、ハードボイルドの進化系、というか延命措置としての経済小説とのハイブリッド作品として、私の知る限りではベストでもあり、橘さん新書っぽい本より小説の方が面白いので、この路線で書いてほしいのだが売れないのだろうか。

 幸田真音を二作。『日本国債』は国債取引の脆弱性をつかれた場合のパニック小説として、とても意義があると思うし、書かれた時の数倍に残高が増えた現在に続編を書いてほしい。ただ、この人の作品、主人公がインサイダーに関わる描写が多く、弱者が強者と相場で闘う以上しょうがないのかも知れないが、いくらなんでも罪悪感なさすぎじゃない?と思うことはある。

 島田雅彦の『悪貨』は、資本主義の超克を目指すコミューンと、大規模な偽札事件を絡めた作品で面白かったのだが、後半になってFRBが量的金融緩和をしているのはユダヤ金融資本を利するためである、とかちょっと頭悪い感じになってしまった。頭悪いのはいいとしても、ユダヤとか言ってしまうと差別だもの。

 『呪縛』に関しては面白いんだけれども、これ前作の後半で読んだやん、と思ったので点数を低くした。

 

(星5)『希望の国エクソダス』『金融腐食列島』(星4.5)『永遠の旅行者』『オレたち花のバブル組』(星4)『オレたちバブル入行組』『日本国債』『マネーロンダリング』(星3.5)『悪貨』『呪縛』(星3)『バイアウト』『レッドゾーン』