21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

J.M.クッツェー『鉄の時代』 第3部

あらゆる追想に先立ち、驚愕して立ちつくすその瞬間に、人形は永遠に存在する。ひとつの生命が奪われるとき、生命は彼らのものではなく、名ばかりのものとして彼らが残される場となる。彼らの知識は実態なき知識であり、現世の重みをもたず、人形の頭のよう…

J.M.クッツェー『鉄の時代』 第1部

冥界(ハデス)、地獄――観念(イデア)の領域なのだ。なぜ、地獄が南極大陸の氷のなかや、火山の噴火口といった場所でなければならなかったのか。なぜ、地獄がアフリカの下端にあってはいけないのか。それになぜ、地獄の生きものが生者のあいだを歩きまわっ…

古今亭志ん朝『志ん朝の落語Ⅰ』 「真景累ヶ淵 豊志賀の死」

「へえ。あっしらァね、長年商売(しょうべえ)だからわかるんですよ、ええ。乗ってますよ、肩にきますから、へえ。うーっと、あれ? はあ?…気のせいだ、へえ…。ふうん、乗ってませんね」 いちおう関西人なもので、落語といえば米朝一門なのだが、たまには…

Alaa Al Aswany "The Yacoubian Building"(2)

Yacoubian Buildingには金持ちから貧乏人まで、いろんな階層の人が住んでいるのだが、その中の一人、門番の息子タハは警察官になるのが夢である。日銭を稼ぐ仕事に追われながらも、学校での成績はトップ、彼の才能をやっかむ人びとの意地悪にもめげず、ひた…

村上春樹『1Q84』 BOOK1 第19章「(青豆)秘密を分かち合う女たち」

しかしそれでも月だけはくっきりと見えた。(BOOK2 第18章「(天吾)寡黙な一人ぼっちの衛星」) この本を読んでいると、いろいろな本を思い出す。それは引用されているような文学作品ではなくて、20世紀の日本のミステリだ。桐野夏生『OUT』、宮部みゆき…