21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2012-01-01から1年間の記事一覧

10月の読書メーター

2012年10月の読書メーター読んだ本の数:8冊読んだページ数:3253ページナイス数:3ナイスダンシング・ヴァニティ (新潮文庫)読了日:10月31日 著者:筒井 康隆失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)読了日:10月30日 著者:戸部 良一,寺本 義也,鎌田 …

田尻芳樹編『J・M・クッツェーの世界』

私はこれを物語という概念で説明してみたい。人間は、世界を絶えず意味づけながら生きているのだが、その意味づけの行為は、広い意味での物語作成と言い換えることができる。私たちは、明確に意識しないまでも、絶えず、現在を過去と未来に関係づけながら、…

筒井康隆『ダンシング・ヴァニティ』

どうにもこうにも、何を書いていいかわからなくなって、本の感想を書かなくなって久しいのだけれど、本自体は読むのがわりと楽しくて、それなりに読んでいる、という日々が続いている。この、筒井御大の『ダンシング・ヴァニティ』も楽しかった。ある日書斎…

9月の読書メーター

2012年9月の読書メーター読んだ本の数:15冊読んだページ数:4967ページナイス数:1ナイスファッション学のすべて (Handbook of fashion)読了日:9月30日 著者:白痴 2 (河出文庫)読了日:9月30日 著者:ドストエフスキー庵堂三兄弟の聖職 (角川ホラー文庫)…

F.ドストエフスキー『白痴』 第三部

「ああ、ばかなこと言って! 必ずお買いなさい。質のよい、フランス製かイギリス製のをね。その二つが最高級だそうよ。それから火薬を、裁縫用の指キャップに一杯分か、それとも二杯分、流しこむのよ。どうせなら多めがいいでしょう。それからフェルトを詰め…

鷲田清一『じぶん・この不思議な存在』

自己同一性の免疫力が低下しているからこそ、じぶんではないもの、異質なものを一種のウイルスとしてとらえ、身体の内部あるいは表面から、身体をとりまく環境から、そういう遺物を徹底的に排除していこうとすると思われるからである。(2「じぶんの内とじぶ…

中野渡進『ハマの裏番 もつ鍋屋になる』

ちなみに野球界をコンビニに例えれば巨人・阪神は弁当、中日はドリンク、ヤクルトは雑誌、広島はフリスク、ベイスターズはホチキスの芯ぐらいだろう。(第一章「口は災い・・・・・・突然の『戦力外通告』) この本はけっこう泣ける。いや、俺が弱っているだ…

J.ボードリヤール『シュミラークルとシュミレーション』 1章「シュミラークルの先行」

領土が地図に先行するのでも、従うのでもない。今後、地図こそ領土に先行するーーシュミラークルの先行ーー地図そのものが領土を生み出すのであり、仮に、あえて先のおとぎ話の続きを語るなら、いま広大な地図の上でゆっくりと腐敗しつづける残骸、それが領…

8月の読書メーター

8月の読書メーター読んだ本の数:15冊読んだページ数:4908ページナイス数:0ナイス翻訳教室 : はじめの一歩 (ちくまプリマー新書)読了日:08月30日 著者:鴻巣 友季子20世紀SF〈3〉1960年代・砂の檻 (河出文庫)読了日:08月30日 著者:アーサー・C. クラー…

鴻巣友季子『翻訳教室』 「第一章 他者になりきる」

では、この壁を打ち破って想像力の枠を広げるにはどうしたらいいでしょう? いきなり想像力だけを広げることはできません。想像力を豊かにするには、経験や知見の土台が欠かせないからです。しかし経験を広げ、知見を深めるといっても、例えば被災地に赴いて…

落合博満『コーチング』

私は、落合博満というプロ野球選手を”欲の塊”だと思っている。あらゆる面に欲深く取り組んでいたから、余分なプレッシャーを感じる暇などなかったのだ。(第五章 勝ち続けるために、自分自身を鍛えろ!) 何回かここにも書いているとおり、私は筋金入りのヤ…

F.ドストエフスキー『白痴』 第一部

「まったくですわ、将軍。私もあなたがそんな優しい心をお持ちだなんて、想像もつきませんでした。なんだか残念なくらい」(322ページ) ドストエフスキー『白痴』の第一部はゴシップ小説である。おおがかりなゴシップの構造の中で、登場人物達がそれぞれア…

綿矢りさ『勝手にふるえてろ』

私も半休ばかりで入社してから海外旅行なんて一回も行ったことがなかった。有休はほとんど取らないうちに三年ごとにリセット、お母さん私の有休は一体どこに行ったんでしょうね、消化されたのよ、なにに、社会に。(136ページ) 芥川賞同時受賞のときは、ど…

7月の読書メーター

7月の読書メーター読んだ本の数:3冊読んだページ数:1360ページナイス数:1ナイスこれからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)読了日:07月26日 著者:マイケル サンデル冬至草 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)読了日:07月25日 …

景山民夫『普通の生活』 「トニー谷のディナージャケット」

僕のJ45にそれ以外の意味合いがあるとすれば、それはニューヨークで生きていくのに絶対に必要な、自分のアイデンティティーとしての役割を果たしてくれたことだろう。(「ギブソンJ45」) 私は中高一貫の学校に通っていたのだが、中3のとき、教師が授業中に…

マイケル・サンデル『これからの正義の話をしよう』 第9章

たいへん面白く読了したのだが、非常にわかりやす過ぎて、これでハーバード大の「政治哲学」の単位がもらえるというのは一種の「ゆとり」ではないかと思ってしまう。やはり、未来のアメリカの指導者達には、「来週までに『実践理性批判』読み通して来いやぁ…

マイケル・サンデル『これからの正義の話をしよう』 第5章

カントは、政治家を信頼する人がいなくなるよりは、政治家の否定の言葉が一言一言吟味されるような状況のほうがましだと言っているわけではない。それは結果主義的な議論だ。カントが言いたいのは、誤解は招いても嘘ではない言葉は、真っ赤な嘘のように聞き…

石黒達昌『冬至草』 「希望ホヤ」

梢の間に見える湖にはうっすらと霧が流れていて、水面から鋭く突き出た枯れ木は死にながら朽ちずに存在していた。夢中で斜面をさまよい歩くうち、地衣類が独特の斑紋を描いている樹木はどれ一つとして同じではないのに、踏み跡程度の道を外して迷い込んでし…

Zemfira "Dokazanno"

まっしぐらに導線をつたって 列車はママのところへやってくる でも私はおうちに帰りたくて 自分でも分からないんだけど なんでだろう? まんまるなオレンジがいらついて これ以上、燃えられないとか悩んでる だから私はデッキに火をつけて サンバを踊ってい…

6月の読書メーター

6月の読書メーター読んだ本の数:8冊読んだページ数:3221ページナイス数:7ナイスオーディション (幻冬舎文庫)人物造形としての一貫性はないが、吉川がいるから作品として救われていると思う。とくに、青山が勝手な想像をして電話をかけたときに、彼のとこ…

田中啓文『蹴りたい田中』

そうだ。喰わねばならない。永遠の美貌に比べればこのぐらいの臭さは屁でもない。薫は小片を飲み下すと、無理矢理大口をあけて、その果実をもうひと噛みした。バターのようなねっとりした食感である。口腔の粘膜にそれが触れた瞬間、再びおぞましいまでの異…

三好達治『詩を読む人のために』

これは、いまあらためて読むべき本ではないかと思う。なによりも読んでいて楽しいのは、三好達治の毒舌ぶり。島崎藤村の「千曲川旅情の歌」の、「千曲川いざよふ波の/岸近き宿にのぼりつ」を評して、「視覚的映像としては何だかとりとめがありません」とし…

5月の読書メーター

5月の読書メーター読んだ本の数:9冊読んだページ数:3405ページナイス数:0ナイスドラフト1位---九人の光と影 (河出文庫)読了日:05月25日 著者:澤宮 優マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)読了日:05月22日 著者:冲方 丁順列都市〈下〉 (…

ロシア映画メモ1 ウラジミール・ハチネンコ「ドストエフスキー」(前編)

2月くらいから、ぼちぼちとロシア映画をDVDで観ていて、何個か感想も書いてみていたのだけれど、どうも「100%オススメ!」というものにめぐりあえなかった。しかし、この「ドストエフスキー」はいい。正確に言うとスクリーンにかかるものではなくて、テレカ…

ロシア映画メモ2 ウラジミール・ハチネンコ「ドストエフスキー」(後編)

さて、後編。各話について、ちょっと詳しく書くので、ネタバレがいやな人は見てはいけない。第一話:ペトラシェフスキー事件に連座しての死刑執行のシーンから、シベリアでの監獄生活が終わるまで。ともかく、「セットにお金かかってるなー」と感心する。と…

雑感

たぶん、「ほんやくコンニャク」が市販されだしたころ、ラッダイトの気持ちがわかるのだろう。

W.フォークナー『アブサロム、アブサロム!』5

まったく、いろいろと、くどくどしいことだ。傾聴する必要などなかったのだが、いやでも聞かされたのだ。そして、やれやれ、いままた最初からくりかえして聞かされるのか。こいつは父の口調とそっくりだな、女というものは美しい生き方をする。女というもの…

W.フォークナー『アブサロム、アブサロム!』3

彼女は時間を封じこめてしまったようだった。彼女は、蜜月もなければべつに変わったことも起こりはしなかった過去のある年月を、それが実際にあったかのように措定したのだ。するとその歳月をとおして、(現在では)五人になった顔が、あたかも真空中に掛け…

開沼博『「フクシマ」論』

もう一つ生まれてくるべき疑問は「3・11の間際まで、そこはいかなる姿を見せていたのか」という問いだろう。3・11以前の福島原発は歴史のなかで無視され、なかったことにされてきた存在だった。それはとりわけ、原発と社会の葛藤が明確になった九〇年…

大庭みな子「寂兮寥兮(かたちもなく)」 七

「きっと、世間の人たちは、あたしたちが、夫と妻に裏切られたあたしたちが、当然の成り行きで慰め合っていると思うわよ。もし、かりに、あの人たちがあたしたちのことを知っているにしても」 「そんなところだろう。女房はいつもぼくをずる賢い男だと言って…