21世紀文学研究所

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柳下毅一郎『興行師たちの映画史』 第四章

 本書の最も重要な主人公は、トッド・ブラウニングである。カーニバルの旅芸人ブラウニングは、ヴォードヴィル、コメディ舞台の世界で名をあげ、やがて映画の世界に入るが、交通事故により芸人としての人生を終え、映画監督となる。はぐれものたちの鬱屈と哀しみを描いた作品を連発するブラウニングの姿は、第五章で描かれるが、それに先立つ第四章はその最も呪われた映画、「フリークス」に捧げられている。それは、実際にシャム双生児や小人が登場する畸形ホラーである。差別的であることを否定できない、見世物映画であろうと、文部省推奨の人間ドラマであろうと、フリークがスクリーンに登場する以上は、関心はその身体に向かう、と柳下毅一郎は明言する。
 「呪われた映画=フリークス」の興行的失敗を境に、ハリウッド映画は「見えざるもの」を隠蔽する産業になった、と柳下は言う。エクスプロイテーションの魅力は、おそらくそこにあるのだ。