21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

小説

ミステリをたくさん読む(20年7月)

大阪の知事と市長がテレビを使って全力でデマを撒き散らしたにも関わらず、市民がリアルタイムで「頭悪くね?」という会話をしているのを見て、ネットって実は素晴らしいものではないか、と思った今日この頃ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか? 夏休み…

経済小説マストリード100を作る(20年第二四半期報告)

コロナの自粛中は御多分に漏れず私もSNSを見る機会が多かったわけだが、時折、「文学プロパーの人って程度低いのかな」と、暗澹たる気持ちになることがあった。 たとえば「人の命と経済とどっちを優先するんだ」という主張を、けっこう頭がいいと思っていた…

ミステリをたくさん読む(20年6月)

最近、主なタスクがデジタル系なので、「必要なければ出社しないでいいよ」と言われると、全く会社に行かないでいい状態が続いている。ホワイトワーカーのWork From Homeいいよね、主に読書量を増やす上では、などと思う今日この頃、ミステリは全部で9冊。 …

ミステリをたくさん読む(20年5月)

コロナによる在宅勤務と自粛生活により、朝の散歩以外は自宅と最寄のスーパーしか行かない日々。皮肉なことに読書には最高の環境で、5月は全部で30冊も本が読めた。そのうちミステリは七作品でちょっと少なめ。 ピエール・ルメートル『その女アレックス』(…

経済小説マストリード100を作る(20年第一四半期報告)

私にはいささか偏った持論があって、経済と世界史ものの作品に関しては、小説より漫画の方がジャンルの深掘りに成功していると思うのだ。もちろん、日本において。 世界史、とくに西洋史については結構すでに言われている。塩野七生を別格に、佐藤賢一とか深…

ミステリをたくさん読む(20年3月)

世の中たいへんなことになっており、仕事もほぼテレワーク。むろん感染も恐ろしいのですが、魔女狩り的な状況も見えてきており、メタファーとしての病についても再考すべき時期かも知れません。これまでに読んだミステリ作品の中では、『鏡は横にひび割れて…

ミステリをたくさん読む(20年2月)

世は新型コロナウィルスによるパンデミック。私の会社も在宅勤務推奨となった。昔なら気にしなかったが、子を持つ親となって感染には人一倍気を遣う。 外に出ないので、本だけは読めている。ロシア文学の読み直しも始めたが、ミステリについては五冊。昭和ハ…

ミステリをたくさん読む(20年1月)

今年こそはロシア文学を読み直す年にしよう、と思って『戦争と平和』を読みはじめた。第二巻、フリーメーソンに入ったピエールが農奴解放を思い立ち、ウクライナの自領における待遇改善を支配人に求める。しばらくして視察に行ったピエールは、学校や井戸が…

ミステリをたくさん読む(12月)

なんかこの企画、無事一年続いた。発見もあったし、本格ミステリの面白さにも目覚めたので、来年も微妙に続けていこうと思う。ただ、来年はこの五段階評価を「ロシア文学」でもやってみようと思っているので、どうなりますやら。 ところで、年末にランキング…

ミステリをたくさん読む(11月)

我が家にも良いニュースがあって、初めての娘が生まれた。可愛くてしかたない訳で、世話をしていると本とか読めないかと思っていたが、案外、通勤時間とかでなんとかなるものだった。まあ、スキマ時間にできるのが読書ぐらいになった、とも言えるが。。。 今…

ミステリをたくさん読む(10月)

台風に列島が揺れた先月、私は肩の痛みに慄いていた。右肩が猛烈に痛くて眠れないだけでなく、右手の親指に痺れまで現れ、人には首のヘルニアだと脅されるのだけれど、それまでに住んでいた文京区から、横浜への引っ越しがまさに展開中で病院にも行けない。…

ミステリをたくさん読む(9月)

キャッシュレス決済ポイント還元に乗せられて、PayPayとか使い始めた昨今。アプリ経由のサービスを利用して、ロシア語の本をトランクルームに入れてみました。計9箱。月間ひと箱250円は安いのですが、留学時代、まだ物価の安かったロシアで、「安いからたく…

ミステリをたくさん読む(8月)

繰り返しにはたしかに、人間の心を摩耗させるものがあって、日々の繰り返しが限界に来るタイミングで、社会は夏休みを取得していると思う。そんなわけで、ゴールデンウィークに挫折したナボコフをもう一度ひもといてみたが、150ページ付近で挫折した。ナボコ…

ミステリをたくさん読む(7月)

ひたすらに雨が降り続いた7月。だんだんと憂鬱になり、活字も頭に入ってこなくなる。ラスコーリニコフを狂わせたのも、ペテルブルクの寒さでも暗さでもなくて、湿気だったなあ、と思う。 読んだ量は多く見えるが、スティーヴン・キングはゴールデンウィーク…

ミステリをたくさん読む(6月)

30年間つきあった差し歯が根元から折れ、前歯を抜く羽目になった。親知らずを抜いた時にも、そこそこの感慨はあったが、仮にあれは抜くことが当たり前の部分だったとすれば、最後まで使うつもりだった自分の一部を失うのは、これが初めてのことになるのだ。 …

ミステリをたくさん読む(5月)

ナボコフは読み始めたところでGWが終わり、終わるとちょっとストレスに弱くなって、難しい本は読まなくなった。じっくりと文学に取り組む時間はやってくるだろうか。 今月のミステリは6冊。年始から累計31冊読んだが、結果として趣味が偏ってきた。 若竹…

小山田浩子『工場』

仕事に身は入らないし、大体身が入ったところで大差はない単純作業なのだが(あらためて考えると、この作業を誰かにさせるために余分に賃金を払おうという工場の考えは酔狂だ。機械でも開発するがいい)、それでもあまりぼーっとしていると逆に辛くなってく…

ミステリをたくさん読む(4月)

特に行くところもやることもなく、平成最後のGWを過ごしている。本を読む時間はふんだんにあるので、ずっと積読だったナボコフの『賜物』でも読んでみようかと思っているが、まだ手をつけないまま、読みかけのミステリと現代小説をパラパラ。 今月は6冊。半…

ミステリをたくさん読む(3月)

鬱っぽい三月だった。くしゃみも出るし、ついに花粉症デヴューしたのかもしれない。でも、読んだ本は当たりばかりだった。勢いに乗って7冊。 米澤穂信『満願』(新潮文庫)★★★★★ 若竹七海『静かな炎天』(文春文庫)★★★★★ 法月綸太郎『ノックス・マシン』(…

四十男、同世代作家を読む(2)米澤穂信

四十代前後の人気作家をそれぞれ五冊くらいずつ読んで、自分の見てきた時代とどのように重なっているのか、あるいは重なっていないのか、を確かめるつもりで始めた。だから、二、三か月に一人くらい書けるのではないかと思っていたが、読みはじめるとそれほ…

ミステリをたくさん読む(2月)

二月は初めてアメリカ合衆国に行った。人生初だった。四十歳まで計、九年間も海外で暮らしていたのに。 訪れたのはサンフランシスコとニューヨーク。折角だから、それぞれを舞台にしたミステリを読もうと思い、本棚からエルロイとマクドナルドを引っ張り出し…

朝吹真理子『きことわ』

誰の目でみているのかがわからなくなる。永遠子は貴子に、春子に、和雄にもまたスライドしていくようだった。しかし幾億年むかしのことも幾光さきの場所も夢の中ではいつもいまになり、ひかりなどがのろいものにおもえる。過ぎ去った一日も百年も同じように…

ミステリをたくさん読む(1月)

本厄の年を迎えた。私のことだ。 これまで無限に思えていた可能性が、だんだんと限られたものになっていく。あと40年、ボケずに生きられたとして、たとえば読書なら1年に100冊読んで4000冊。たかが知れたものである。選択をクリアにしていかなけれ…

四十男、同世代作家を読む(1)塩田武士

時の経つのは早いもので、このブログの最初の頃には二十代だった私も、今月、四十歳の誕生日を迎えます。しかし、ただ漫然と四十歳の一年間も過ごすのもなんなので、今年は意識して同世代作家の本を読んで行くことにしました。同じ世代の人とはおそらく、文…

K.イシグロ『わたしを離さないで』感想その③語り手としてのキャス

「信用できない語り手」という、どちらかと言うとチープな評論用語がある。イシグロ作品についても使う向きがあるようだが、そもそも一人称の語り手を相手にして、記憶の正確さや語りの公平性を求めることには、無理があるように思う。だから、「信用できな…

K.イシグロ『わたしを離さないで』 感想その①

二年間も更新を放置しているうちに、イシグロがノーベル賞を受賞してしまった。それはとても良いことなのだが、前回の『わたしたちが孤児だったころ』の感想も途中で放棄している身としては、なかなか感想文も上げづらい。しかし、もういちど『わたしを離さ…

K.イシグロ『わたしを離さないで』感想その②忘れられた登場人物

最初に読み終えたとき、登場人物は何人、頭の中に残っているだろう? 正直を言えば、わたしの場合、さすがに、主人公級のトミー、ルース、キャスは大丈夫としても、あとはマダムと、ブルドックの顎を持つルーシー先生くらいだった。マダムよりも重要なはずの…

K.イシグロ『忘れられた巨人』第十五〜十七章

来るなら来い。来るがよい。お忘れか、アクセル殿。わしはあの日、貴殿と会っておる。貴殿は耳に残る子供や赤子の泣き声のことを語った。わしもそれを聞いたよ、アクセル殿。だが、あれは命を救う医師の天幕に上がる叫びと同じたぐいのものではないのか。治…

K.イシグロ『忘れられた巨人』 第九〜十四章

わたしが見てほしいところ、まだ見てくれていないんじゃないかしら、アクセル。(第十三章) 第三部、第九章と十四章は「ガウェインの追憶」と題されていて、ここだけ一人称の語りになっている。そして、アングロ人とサクソン人の間には、血で血を洗う戦いが…

K.イシグロ『忘れられた巨人』 第六〜八章

ネットで英語の書評をいくつか読んでみたのだけれど、この作品を「失敗作」と見る向きも結構あるようですね。正直なところ、一読しての私の感想も、すげー読みにくい上に、結論がけっこう安易じゃね?というところ。それが実態として正しい感想なのか、それ…