21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

M.ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』 4「追跡」

いくらベズドームヌイが混乱していたとはいえ、それでもやはり、この追跡の超自然的な速度には驚かざるをえなかった。二キータ門をあとにして二十秒と経たぬうちに、すでにベズドームヌイはアルバート広場のまばゆい明かりに目をくらまされていた。さらに何…

ダイジェスト版

私はいわば外側の喧騒につりあうだけの喧騒をうちに宿していたのである。(古井由吉「先導獣の話」) このブログをはじめたころの生活はといえば、片道1時間の通勤時間がある東京のサラリーマン生活で、連続して地下鉄に乗っている時間が30分はあるから、本…

M.ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』 2「ポンティウス・ピラト」

そこで彼は、沈黙している町の上に《R》の音を転がすようにして叫んだ。 「バラバ!」 この瞬間、すさまじい音響とともに太陽が頭上で炸裂し、耳に炎を流しこんだようにピラトには思われた。その炎につつまれて、咆哮、金切声、呻き、哄笑、口笛が荒れ狂った…

猪木武徳『戦後世界経済史』 第一章第2節

つまり民主国家にとって重要なのは、国民が倫理的に善い選択を行い得るためには、まず十分な知識と情報が必要だということである。いい換えれば、難問を適切に選択し処理するための倫理(モラル)を確かなものにするには、知性と情報が不可欠なのである。(…

大塚英志『キャラクター小説の作り方』 第9講

湾岸戦争の時にはTVゲームをする若者たちが「虚構と現実の区別がつかない」と批判されたことを記しました。けれども「9・11」以降、ハリウッド映画の「物語」のように現実の戦争を始めようとしているものがアメリカや日本の政治家たちであり、テレビや雑誌に…

伊藤計劃『虐殺器官』 第二部4

この古さと曲がりくねった道、そしてカフカのイメージが、ぼくにこの街を迷宮のように見せている。ボルヘスが描いたラテン・アメリカ的なそれとは違う、ヨーロッパの青く暗い光にうっすらと浮かび上がる、冷たい迷宮に。(第二部6) ぐいぐいと引き込まれる…

猪木武徳『戦後世界経済史』 第一章第1節

「グローバル化」が行き過ぎたことによって、逆に保護主義による「ブロック化」へと振り子は振れたのである。(10ページ) 本書は日本経済新聞の「2009年エコノミストが選ぶ経済図書ベスト1」に選出されたわけで、私もビジネスマンの端くれとして手にとって…

伊藤計劃『虐殺器官』 第一部4

ぼくには、ことばが単なるコミュニケーションのツールには見えなかった。見えなかった、というのは、ぼくはことばを、リアルな手触りをもつ実態ある存在として感じていたからだ。ぼくにはことばが、人と人とのあいだに漂う関係性の網ではなく、人を規定し、…

佐藤優『自壊する帝国』 第八章

モスクワも収容所群島の一部だったわけだ。(「文庫版あとがき」) 本書の弱点を一つ挙げろといわれれば、おそらくそれは「えっ」とか「まさか」とか「ふうん」とかが連発される、わざとらしい会話文だとしか言いようがないのだが、困ったことにロシア人は本…

佐藤優『自壊する帝国』 第二章

「結局のところモスクワは他人を利用しようとする人間だけが集まった肉食獣の街だよ。コーリャにはベラルーシ人として生きて欲しい。こんな生活は僕で最後にしたい。」(第八章「亡国の罠」) 駐在員などで集まって話をすると、「(日本に帰るとき)モスクワ…

今月読んだ捨ておけぬ三冊(7月篇)

鴻巣友季子『孕むことば』 たとえばエッセイや、あるいはブログでもいいのだけれど、他人の書いた文章を読むときに、読者はなにを期待するのだろう? もちろん、自分が心の底でおもっていたことを文章にしてもらって、それを読んで膝を打つ、ということもあ…