21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

ミステリをたくさん読む(20年6月)

 最近、主なタスクがデジタル系なので、「必要なければ出社しないでいいよ」と言われると、全く会社に行かないでいい状態が続いている。ホワイトワーカーのWork From Homeいいよね、主に読書量を増やす上では、などと思う今日この頃、ミステリは全部で9冊。

 

アントニイ・バークリイ『毒入りチョコレート事件』(高橋泰邦訳、創元推理文庫)★★★★★

桐野夏生『ダーク』(講談社文庫)★★★★★

仁木悦子『赤い猫』(講談社文庫)★★★★★

藤原伊織『テロリストのパラソル』(角川文庫)★★★★★

ローレンス・ブロック『バランスが肝心』(田口俊樹編、ハヤカワ文庫)★★★★

ヘニング・マンケル『目くらましの道』(柳沢由美子訳、創元推理文庫)★★★★

橘玲『永遠の旅行者』(幻冬舎文庫)★★★★

仁木悦子『日の翳る街』(講談社文庫)★★★★

深町秋生アウトバーン』(幻冬舎文庫)★★

 

 『毒入りチョコレート事件』は好みのタイプ。頭が論理でできていないので、議論を追いながら論理を組み立てられる、複数の推理が提出されるタイプのミステリが好きなのかも。この作品の語りの仕掛けは本当に上手で、名作と言われるだけのことはある。

 日本のハードボイルドが四作ばかり。藤原伊織の『テロリストのパラソル』は日本の正統派ヒーローものとして、プロットの巧みさが極地に達しているのでは。もちろん大枠は『長いお別れ』な訳で、爆発は『百舌の叫ぶ夜』という先行作品もあるわけだが、ディテイルの積み重ねから真相に近づいていく書き方が素晴らしい。新宿のホームレス周りのイメージは、翌年のベストセラー『不夜城』や、ガリレオシリーズのアレにも影響を与えていると思うし、作家自身が影響を公言している塩田武士『罪の声』も物語の構造は近い。で、この正統派と真逆をいくのが桐野夏生『ダーク』で、『パラソル』がアル中の堕ちたヒーローとか、過去との邂逅とか、やたらモテるとかアッパーな要素が満載なのに対し、ダウナー要素だけでこのリーダビリティはすごい。

 21世紀に入ってハードボイルドが絶滅危惧種と化している中、経済小説とのハイブリッドで感傷的なハードボイルドを生かした『永遠の旅行者』はもっと評価されてほしい作品。山本賞候補だったのに落ちたと知ってWikiで調べたら、受賞者が宇月原晴明だったのでそれはしょうがないかと。現在、ハード要素は警察小説に吸収されているとおぼしいが、『アウトバーン』はシリーズ化前提なのが見え隠れして面白くなかった。

 仁木悦子を2冊。『赤い猫』所収の「乳色の朝」は誘拐ものの短篇として史上最高のように思う。沢崎シリーズのアレにも影響を与えているのではないだろうか。『日の翳る街』も面白いけれども、謎解きがそれほど良くなかった。

 ローレンス・ブロックの短編集は相変わらずエイレングラフシリーズが面白い。イヤミスっぽさは『おかしなことを聞くね』より弱めで、文学色が強まった。

 マンケルは『リガの犬たち』が最高に好きだったのだけれど、それ以降あまり口に合わなくなってきたな。これまで紙の本を買っていたけど、電子に切り替えよう。