21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

佐藤亜紀『ミノタウロス』

人間の尊厳なぞ糞食らえだ。ぼくたちはみんな、別々の工場で同型の金型から鋳抜かれた部品のように作られる。大きさも。重さも、強度も、役割もみんな一緒だ。だからすり減れば幾らでも取り換えが利く。彼の代わりにぼくがいても、ぼくの代わりに彼がいても…

雑感: 読書メータ

読書メータはじめました。http://book.akahoshitakuya.com/u/79251

雑感: デミヤンの魚スープ

みじかい出張があって、ほぼ10年ぶりにサンクト・ペテルブルクを訪れた。10年後に、これまで訪れていなかった同じ街へ行くというのは、意外にめずらしい体験なのではないだろうか? ペテルブルクは、案の定かわってはいたけれど、モスクワのような狂騒感はな…

古井由吉『木犀の日』 「木犀の日」

木犀の香がまたふくらんで、どんよりと曇りながら空けていく朝の空を思った。やがて立ちあがり出仕度を始めた。(211ページ) もともと出不精なので、旅行というのはそんなに好きではなかったが、最近、知らない町をおとずれて、頭の中にわずかな土地勘がで…

古井由吉『木犀の日』 「椋鳥」

「いっそあたしと寝ていたらどうなの。泰子さんが大事な人に抱かれて逝くあいだ」(44ページ) モチーフに囚われて書く、というのは、作家性の一種の狂気を孕んだ部分なのだと思う。ひとつの風景や、物象に、必要以上の意味あいを持たせていき、ひとによって…

鹿島茂『パリ・世紀末パノラマ館』

これは、おそらく、百年単位で意識を切り替える思考法になれているヨーロッパの人間たちでも、ひとつの世紀に対して総括を出すのに世紀末の十五年を要するばかりか、そこから新しい世紀を生み出す準備にまた十五年を必要とするということをいみするのではな…

古井由吉『木犀の日』 「眉雨」

いや、むしろ眉だ。目はひたすら内へ澄んで、眉にほのかな、表情がある。何事か、忌まわしい行為を待っている。憎しみながら促している。女人の眉だ。そのさらにおもむろな翳りのすすみにつれて、太い雲が苦しんで、襞の奥から熱いものを滲ませる。そのうち…

古井由吉『人生の色気』 第四章「七分の真面目、三分の気まま」

とにかく、忙し過ぎるんです。自分で考える時間や癖を与えられることがありません。これまでの社会では、まず、何かを選択する前に、自分で考えるというプロセスがあったんです。しかし、いまでは、商品一つ買うのにも、多様なように見えて、選択の幅がほと…

M.ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』第Ⅰ部あらすじ

【1】1「見知らぬ男とは口をきくべからず」から、3「第七の証明」まで「よく覚えておいてください、イエスは存在していたのです」 ある異様に暑い春の日、無神論者ベルリオーズと詩人イワンの前に現れた外国人ヴォラントは、外国人にしては完璧なロシア語を…

雑感:あらすじについて

文学が今後隆盛をとりもどすかどうか、まったくわからないけれど、一人の文学畑出身者として思うことは、「茶のみ話」としての文学を開発したい、ということだ。つまりは私のような30前後の男たちが集まると、茶のみ話(と、いうよりは居酒屋トーク)として…

古井由吉『人生の色気』 第一章「作家渡世四〇年」

ひょっとしたら、年から年へと振れるそのはずみに、自分のいなくなった後のことまで、話していたかもしれない。(「ゆめがたり」) 古井由吉氏の作品にはよくサラリーマンが登場するのだが、大学の先生を「サラリーマン」と考えるのは止すとすれば、氏にはサ…