21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

評論

田尻芳樹編『J・M・クッツェーの世界』

私はこれを物語という概念で説明してみたい。人間は、世界を絶えず意味づけながら生きているのだが、その意味づけの行為は、広い意味での物語作成と言い換えることができる。私たちは、明確に意識しないまでも、絶えず、現在を過去と未来に関係づけながら、…

J.ボードリヤール『シュミラークルとシュミレーション』 1章「シュミラークルの先行」

領土が地図に先行するのでも、従うのでもない。今後、地図こそ領土に先行するーーシュミラークルの先行ーー地図そのものが領土を生み出すのであり、仮に、あえて先のおとぎ話の続きを語るなら、いま広大な地図の上でゆっくりと腐敗しつづける残骸、それが領…

佐藤亜紀『小説のストラテジー』 8「ディエーゲーシス/ミメーシス」

ところで、実際彼が聴いたのは何だったのでしょう? 例のジャジャジャジャーン、がウィーン体制の政治的閉塞にぶち当たったベートーベンの苦悩に聴こえるとすれば、それは空耳です。(1「快楽の装置」) 伊藤計劃のブログに「我々は手遅れの季節に住んでいる…

大塚英志『キャラクター小説の作り方』 第9講

湾岸戦争の時にはTVゲームをする若者たちが「虚構と現実の区別がつかない」と批判されたことを記しました。けれども「9・11」以降、ハリウッド映画の「物語」のように現実の戦争を始めようとしているものがアメリカや日本の政治家たちであり、テレビや雑誌に…

鹿島茂『オール・アバウト・セックス』

換言すれば、室井佑月の小説はどんなときでも「ほてって」いるのだ。(「売春しない理由」) 言葉は昇華すればするほど堕落する。むかし、「ごっつええ感じ」でダウンタウンの松ちゃんが言っていた表現を借りれば、「フリはきかせればきかせるほど自分が不利…

本田透『世界の電波男』 第二部

本田透氏は出世作(?)『電波男』で、宮沢賢治が「萌え」を知らなければ、鬼畜になって「イーハトーヴ30人殺し」を起こしていただろうという、喪男を訪れる「萌え」と「鬼畜」の分岐点という名理論をうちたてた。これはモテるとか、モテないとか、そうい…

本田透『世界の電波男』 第一部

ゴールデンウィークに三才ブックスの本なんか読んでていいのかYO! という近代の自意識によるツッコミはさておき、本田透は物語について、完全に「自分のこと」として論を展開できる数少ない(ひょっとしたらただ一人?)の評論家である。前著『喪男の哲学史…

福井勝也 『日本近代文学のとドストエフスキー』第二章(五)

市民文学サークル「ドストエーフスキイの会」の運営委員である、福井勝也氏よりご著書を送っていただいたので、僭越ながら感想文を。 本書第二章(五)では、院生時代に私が同会で行なった発表について触れていただいている。自分が話し、書いたことについて…