21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

安岡章太郎『15の対話』 対話七「日本人は生き残れるか」

ずっと「つまみ読み」をしてきた一冊だが、お盆で時間ができたので、通し読みにチャレンジ。だが、「積ん読」にしておいて五年あまりにもなる本だけに、読むこと自体にすこし歴史が発生している。
さて、タイトルを見ればわかるように、この本は安岡章太郎の対談集である。刊行は平成九年とおよそ十年前だが、対談じたいは、さらにその十年ばかり前に行われたものが多く、いまからすれば二十年前の「対話」がつめこまれていることになる。が、それでもこの本は新しい。
渡部昇一との、大仰なタイトルがついた対話では、世界の中での日本の長短所について、それこそ文化産業から写真に写ったとき鳥居と西洋建築でどちらが映えるか、まで語りつくす。何故か記憶に残るのは、オックスフォードの辞典をイギリス人は買わないけれども、日本人は結構個人で買っている、という話から、イギリスの大学教授の給料がいまでは日本の高校教師になっている、というふうに話が飛ぶくだり。おそらくは経済的にも、文化的にも生き残れなかった国として大英帝国が想定されているのだなあ、と思うと何故かおもしろい。そして、この対論の勘どころが分かったような錯覚に陥らせてくれる。

ただ現在の日本の繁栄が当たり前のものだとは絶対に思えないなあ。戦争、飢餓、貧困という時代がこの日本にあったことは確かなんです。今日の繁栄はごく表面的に覆いかくしているんですね。いろいろのものを。(「『昭和』の日本人」VSドナルド・キーン