21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

A.ベンダー『燃えるスカートの少女』 第三話「溝への忘れ物」

彼女は指のあいまから土をはらはらと積み重ねたセーターの上に降らせた。土は脇にこぼれ、ゆっくりと穴の空間をみたし、カラフルな袖を覆っていった。死んだセーターたち、と彼女は考えた。なんだか笑える、こんなことになるなんて。(41-42ページ)

 エイミー・ベンダーの言葉フェチはやはりかなりのものなのであって、ついには口唇破裂音、口唇摩擦音が発音できない夫のために浮気しそうになる妻、を想像した。妻は失われた唇のやわらかさを求めているようだが、彼女を絶望させるのは、やはり夫の唇が、彼女を満足させる音をたてられないことにある。

(『燃えるスカートの少女』 角川文庫)