21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2010-01-01から1年間の記事一覧

猪木武徳『戦後世界経済史』 第一章第1節

「グローバル化」が行き過ぎたことによって、逆に保護主義による「ブロック化」へと振り子は振れたのである。(10ページ) 本書は日本経済新聞の「2009年エコノミストが選ぶ経済図書ベスト1」に選出されたわけで、私もビジネスマンの端くれとして手にとって…

伊藤計劃『虐殺器官』 第一部4

ぼくには、ことばが単なるコミュニケーションのツールには見えなかった。見えなかった、というのは、ぼくはことばを、リアルな手触りをもつ実態ある存在として感じていたからだ。ぼくにはことばが、人と人とのあいだに漂う関係性の網ではなく、人を規定し、…

佐藤優『自壊する帝国』 第八章

モスクワも収容所群島の一部だったわけだ。(「文庫版あとがき」) 本書の弱点を一つ挙げろといわれれば、おそらくそれは「えっ」とか「まさか」とか「ふうん」とかが連発される、わざとらしい会話文だとしか言いようがないのだが、困ったことにロシア人は本…

佐藤優『自壊する帝国』 第二章

「結局のところモスクワは他人を利用しようとする人間だけが集まった肉食獣の街だよ。コーリャにはベラルーシ人として生きて欲しい。こんな生活は僕で最後にしたい。」(第八章「亡国の罠」) 駐在員などで集まって話をすると、「(日本に帰るとき)モスクワ…

今月読んだ捨ておけぬ三冊(7月篇)

鴻巣友季子『孕むことば』 たとえばエッセイや、あるいはブログでもいいのだけれど、他人の書いた文章を読むときに、読者はなにを期待するのだろう? もちろん、自分が心の底でおもっていたことを文章にしてもらって、それを読んで膝を打つ、ということもあ…

リリー・フランキー『東京タワー』

お盆の季節に日本に帰ったので、自然、墓参りや法事など、死者を悼む行事に参列することが多かった。ただし、亡母をはじめ、親しい人の位牌の前に立っても、漫画や小説のように死者に語りかける、などということは気恥ずかしくてできず、かといって頭から離…

ダイジェスト版

ご無沙汰しております。日本に一時帰国したり、その前はモスクワが38度の酷暑で、さらには森林泥炭火災の一酸化炭素中毒なども加わり、まったく書けずにおりました。日本ではけっこう本を読んだので、恒例のダイジェスト版でお送りします。 帰国途上の飛行機…

鴻巣友季子『孕むことば』 「かぶさんが来る」

順位にとらわれるな、自分の好きな道を進めというのは、しかしいまの(少なくとも)日本の子どもにとって、本当にありがたいことなんだろうか?(103-104ページ) この章に描かれている「かぶさん」とは、たぶん子どもの周りにいる小さな「神」のようなもの…

鴻巣友季子『孕むことば』 「日々の幸せ」

翻訳の仕事をしていると、ことばや意思の「通じない豊かさ」ということを終始考える。その反対にあるのが、やすやすと通じあってしまう(通じあってると思いこんでしまえる)貧しさだ。(中略)たがいに深い文化土壌をもっていて初めて、「通じあえない」と…

平野啓一郎『葬送』 第一部・七

絵筆を執って暫くの間は、時々息を吐き掛けて、悴む指先をほぐさねばならなかった。しかし、じきにそれも忘れてしまって、腕を動かしていること自体を意識しなくなっていた。集中すると何時もそうであるように、手と目は直結し、からだの一部分であることを…

蓮實重彦他『映画狂人、語る。』 「残酷な視線を獲得するために」VS村上龍

(蓮實)やはりいろいろなスポーツがあるけれども、サッカーほど動きとして美しいものはない。(266ページ) 基本的に蓮實重彦って好きではないのだが、この本を読み始めたのは、映画の本を読みたくてほかに在庫がなかったからか。上にあげた一言に目が止ま…

E.ザミャーチン『われら』 手記29

ひょっとすると、この私まで御自分の創造物だと思ってらっしゃるんじゃないかしら。光栄ね……(「手記2」) 5年ほど前のフジテレビの深夜番組に「ワールドダウンタウン」というのがあって、これは今まで見た中で1,2を争うくらい好きなお笑い番組なのだが、…

今月読んだ捨ておけぬ三冊(6月編)

Jeffrey Eudenides "the virgin suicides" たしかに21世紀が閉塞した時代である、と断言するには聊かのためらいがあるけれども、個々人がそこになにかしらの「聖域」を見出さなければいられない程に、それは閉じこもっていると思う。宗教や思想をもたないも…

E.ザミャーチン『われら』 手記11

この束縛をあこがれる心こそ、いいかね、いわゆる世界苦というやつなのさ。数十世紀にわたる世界苦だ! そしてわれわれが久方ぶりに幸福を取り戻すすべをふたたび悟った……いや、この先を聴いてくれ、この先を! 古代の神とわれわれとは今や対等なんだよ。(18…

今月読んだ捨ておけぬ三冊(1〜5月編)

この企画と、「ロック・アルバムを読む」は、プロバイダを解約したらなくなってしまった(当たり前だ)ワタクシのHPの企画なのですが、ずっと復活を図っていたものの、月末はそれなりに忙しかったりして果たせずにおりました。今日は一日ヒマなので、復活さ…

スミスで学ぶ英単語(3)

humdrum(形)平凡な、月並みな、単調な、退屈な ―この世界のあり方を表す形容詞。 (用例)The rain falls hard on a hundrum town. This town has dragged you down.(WILLIAM, IT WAS REALLY NOTHING)recoil(動)はねかえる、退却する、あとずさりする ―…

雑感:英語とキャラクタービジネス

唐突だが、iTunesのおおきな機能は「貯める」ということにあるのではないだろうか? 私はかならずしもアップルの信奉者ではないし、どちらかと言えば日本製品を買わなくては、と思うほうで、実際最初に買ったメモリーオーディオはTOSHIBAのものだった。ただ…

J.オースティン『高慢と偏見』 61

「そりゃだめよ」と、エリザベスが言った。「二人ともいい人にしようったって、そりゃ無理よ。どっちかにきめなくちゃ。一人だけで満足しなければだめよ。二人の間には、ちょうどあわせていい人が一人できるくらいの価値の量しかないのよ。」(40) 美人姉妹と…

J.オースティン『高慢と偏見』 34

わたしはロマンチックな女じゃないわ。昔からそうなのよ。わたしはただ楽しい家庭がほしいんです。そしてコリンズさんの性格や親類関係や身分を考えると、あの人と結婚すれば、世間の人たちが結婚生活にはいって、自慢するくらいのしあわせはきっとえられる…

スミスで学ぶ英単語(2)

decree(動)命ずる、布告する、宣言する ―決まりきったことを表明するときに言うことば。 (用例)I decree today that life is simply taking and not giving.(STILL ILL)stare(動)じっと見つめる、じろじろ見る ―善良な人びとがアレな人びとを見るとき…

The Smiths "The Smiths"

England is mine and it owes me a living. Ask me why, and I'll spit in your eye(STILL ILL) 最近の私の確信は、ポップカルチャーが発達すれば政治・経済的に国は滅びる、ということである。むろん、ポップカルチャーのファンとしてそのことに反対なわけ…

J.オースティン『高慢と偏見』 19

そんなふうに、詩に負けて恋をすてた人は、今までにずいぶんたくさんいたようですね。恋を忘れるためには詩がやくにたつということを、はじめて発見した人は誰なんでしょう?」(9) これは、私の偏見と言っていただいて良いが、英文学というのは他言語の文…

J.Eugenides "the virgin suicides"

There had never been a funeral in our town before, at least not during our lifetimes.(two) ソフィア・コッポラの映画で有名な「ヴァージン・スーサイズ」は不思議な小説である。第二次世界大戦後、だれも死んだことがないというほど小さな町で、美人で…

スミスで学ぶ英単語(1)

virtually(副)事実上、実質的には ―公園で少年を襲うような男の死んでいる度合いをさして言うことば。 (用例)people said that you were virtually dead and they were so wrong.(REEL AROUND THE FOUNTAIN)shy(形)内気な、引っ込みがちな、用心深い ―…

E.ブロンテ『嵐が丘』 第三十三章

『いま一度あいつを腕に抱こう! 冷たくなっていたら、俺が凍えているのはこの北風のせいと思い、動かなければ、眠っているんだと思おう』(第二十九章) ある一定の時期まで、小説にはたしかに二つの機能が存在していて、『嵐が丘』は最も成功した作品のひ…

E.ブロンテ『嵐が丘』 第十五章

奥様は三日目に、ようやく寝室のドアの錠をはずしました。水差しとデキャンターの水を飲み干すと、もっと注いできてと云い、オートミールのお粥も所望されました。自分は死んでしまうに違いない、と云うんです。ははあ、これはエドガー様に聞かせたい台詞だ…

E.ブロンテ『嵐が丘』 第九章

「入っておいで! 入っておいで!」と云って、すすり泣く。「キャシー、さあ、こっちだよ。ああ、お願いだ――せめてもう一度! ああ、わが心の愛しい人、こんどこそ聞き届けておくれ――キャサリン、今日こそは!」(第三章) ヒースクリフというのは不思議な主…

雑感:ロシア語マンガ事情

アメリカとかフランスで日本のマンガが受けている、というのはよく聞く話なのだが、さてロシアではどうか、という話になると、英語から重訳されたらしきポケモンやセーラームーンがむかし流行っていたものの、今はそんなに有名ではない、というのが公式回答…

堀江敏幸『回送電車』 「リ・ラ・プリュス」

フィルターなしのゴロワーズやジタンを喫むくらいなら自分で巻いたらどうだ、とありがたくもない忠告をしてくれたのは、そのころパリでよくつきあっていたモロッコ人の友人だった。(218ページ) 『回送電車』の第四部には様々なものに関する想い出、愛着が…

"Best European Fiction 2010" [Austlia] A.Fian from "While Sleeping"

We'd just begun putting them together when word came that these boxes were actually urns in which, after we'd been killed and cremated, the ashes of each prisoner would be stored (BOXES) はじめて外国旅行に出かけたのは北京で、それは若干バブ…