21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

リリー・フランキー『東京タワー』

 お盆の季節に日本に帰ったので、自然、墓参りや法事など、死者を悼む行事に参列することが多かった。ただし、亡母をはじめ、親しい人の位牌の前に立っても、漫画や小説のように死者に語りかける、などということは気恥ずかしくてできず、かといって頭から離れない雑念のようなものもないので、なんだか死者の前で雑音のようなものばかりを抱えていた。そういうときは、なんとなく申し訳ない気持ちになるものである。
 『東京タワー』のような、おそらく書くのがつらかっただろう本を書くような、つよい愛情は私にはないらしい。この本にはなんとなく独善的で気に食わない部分もあるけれど、ただ、読んでいる間は一切の雑音を消して、母親のことを考えていた。まるでお墓参りのような本だ、といえば書いた人に失礼かもしれないが、ただ、そういう本として私には残った。

『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(新潮文庫