21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

"Best European Fiction 2010" [Austlia] A.Fian from "While Sleeping"

We'd just begun putting them together when word came that these boxes were actually urns in which, after we'd been killed and cremated, the ashes of each prisoner would be stored (BOXES)

 はじめて外国旅行に出かけたのは北京で、それは若干バブリーにも高校の修学旅行だったのだが、そのときは10数年後に自分がロシアにいるなどとは想像もせず、これから海外に出かけることも少ないであろうから、行くからには当地の文学を知ったうえでないと申し訳ない、と思い魯迅の『阿Q正伝』を読んだのを覚えている。そのときの知能では『阿Q正伝』に深い感銘も受けなかったらしく、あまり内容を覚えていないが、いまだに外国に行くときには、その国の小説をすこしなりと読まねばならない、という観念は残っている。
 おそめのゴールデンウィーク休暇として、今月半ばからウィーンとジュネーヴに行くことにしたのだが、困るのはオーストリアとスイスという二か国が、文学的にはそれほど有名ではないことである。そんなときに便利なのがロンドンで購入した、この"Best European Fiction 2010"という本で、欧州30か国ちかい最新の短篇小説を集めてくれているばかりか、ベルギーやスペインなどは使用言語別に作品を集めているという徹底ぶりで、当然オーストリアとスイスもカバーされている。なお、Aleksandar Hemonによる序文によれば、このプロジェクトは年次刊行を目指しているそうで、ぜひ『2011』も発売してほしいものである。
 さてオーストリアについてはAntonio Fianという作家の夢日記を収めている。わずかな紙数のなかで、カフカ風の不気味な夢ばかりを抜粋してあるが、小説としてはもうすこし工夫がほしい、という気持ちもあるものの、失礼にも旅行ガイド的に読んでいる身としては充分に好奇心を満足させてくれる。一番の佳作は最初に収められた"Dolphine"あるいは全裸で跪き聖書を朗誦するバービー人形を発見する"Barbie"か。"Dolphine"はバルコニーの水槽でイルカや魚を飼っている従姉妹の家に招かれた主人公の娘が、料理人がその水槽から網で魚をすくってはハンマーで打ち殺す(ということはこの水槽は生簀か?)のを見て、アメジストの大石でイルカを殺してしまう、という物語である。娘はまわりの子供たちから、「お前が殺したのは魚ではなく哺乳類である」ということで責められるのだが、当の従姉妹はなぜかこのイルカはどうせ水槽で飼うには大きくなりすぎるから、そのうち殺さざるを得なかった、と赦してくれる。ただ主人公はイマイチ納得いかず、「お前これ哺乳類だぞ!」と言ってケンカをする、というのがオチなのだが、イルカは高度に知的な生物だから殺してはいけない、とかいう議論そのものはさておき、この議論をめぐって年齢的な子供たちのみならず、すでに大人になっている従兄妹どうしも子供にもどってしまうのところが心を惹く。べつだんそこに何の意味を見出そうと言うのではないが、ただその一点においてこの短篇は魅力的なのである。

European history is at the same time a history of fragmentation, caused by wars and political reconstructions, and a history of transcending -- by necessity -- differences, borders, and distances. No country in Europe can be understood outside its historical relations with other European countries, no culture in Europe can be comprehended outside its interactions with other cultures. Europe is a fragmented space that always strives toward some form of integration. This has, I believe, always been the case, but the simultaneous processes of fragmentation, interaction, and integration have certainly been intensified with the formation of European Union. (Introduction by Aleksandar Hemon)

(Best European Fiction 2010, edited by Aleksandar Hemon, Dalkey Archive Press)