21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

今月読んだ捨ておけぬ三冊(7月篇)

鴻巣友季子『孕むことば』

 たとえばエッセイや、あるいはブログでもいいのだけれど、他人の書いた文章を読むときに、読者はなにを期待するのだろう? もちろん、自分が心の底でおもっていたことを文章にしてもらって、それを読んで膝を打つ、ということもあるはずである。『孕むことば』を読んでいると、そういう快感を味わうこともできる。(たとえば、個別の項でも書いたけれど、大人が道を示しもせず、子供に「自分だけの夢を持て」などというのは、ネグレクトに近い、など)
 ただし、それだけが読書の喜びでもないはずだ。40歳ではじめての子供を産んだ著者にとって、子供が愛おしくもありながら、これまでの考えを覆してしまう「異物」であったように、この本はもちろん異物としても立ちあらわれる。ただ、それはとても心地よい異物との出会いである。

蓮實重彦 『映画狂人、語る』

 海外に住んでいるからかも知れないが、なぜか無性に日本の映画が観たくなるのである。そして、これは私個人の習性だろうが、それについて書かれた文字も読みたくなる。あまり書いた人は好きではないのだが(とくに文学についてなんか言うとき)、この本で語られている「映画的」ということばはすっきりと胸の中におさまった。なんだか、すべての映画を「映画的かどうかなあ」と思ってみてしまうのである。

堀江敏幸 『もののはずみ』

 さて、この本は個別では扱わなかった。著者がおもにフランスで買った、骨董品(?)への愛着を語った本である。学生時代、私の部屋を訪れた先輩が、「お前の部屋にはソフトウェア(本とCD)しかない」と言ったように、私自身はものへの執着はすくない。なので、この本もやはり「異物」にはちがいないのだが、『雪沼とその周辺』をはじめとする堀江作品のすぐれた感性が、こういう場所から生まれているのか、と思えばこれまた心地よくある。