21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

19世紀文学

L.トルストイ『戦争と平和』第一巻第一部

『戦争と平和』を読みかえしている。 そう言うと、幾度も読んでいるようだが、実は高校生の頃に読んで以来の二度目だ。『アンナ・カレーニナ』は数回は読みかえしたのに、ずいぶんバランスの悪い話ではある。理由はいくつかあるだろうが、単純に登場人物とプ…

F.ドストエフスキー『白痴』 第三部

「ああ、ばかなこと言って! 必ずお買いなさい。質のよい、フランス製かイギリス製のをね。その二つが最高級だそうよ。それから火薬を、裁縫用の指キャップに一杯分か、それとも二杯分、流しこむのよ。どうせなら多めがいいでしょう。それからフェルトを詰め…

F.ドストエフスキー『白痴』 第一部

「まったくですわ、将軍。私もあなたがそんな優しい心をお持ちだなんて、想像もつきませんでした。なんだか残念なくらい」(322ページ) ドストエフスキー『白痴』の第一部はゴシップ小説である。おおがかりなゴシップの構造の中で、登場人物達がそれぞれア…

C.ブロンテ『ジェイン・エア』 26

私は果樹園の塀に沿って行ってその角を曲がった。ちょうどそこに牧場に向かって開いている二本の石の柱がそれぞれ石の玉をいただいている門があって、そこから私はそっと屋敷の正面を覗くことができた。私はどこか寝室のブラインドがもうあがっているかもし…

C.ブロンテ『ジェイン・エア』 23

ヘレンは私の指を温めるためにゆっくりさすりながら、 「もし世界じゅうの人間があなたを憎んであなたのように悪い人間はいないと思っても、あなたの良心があなたがすることを認めて、あなたは何もとがめられるようなことはしていないとみとめるなら、あなた…

J.オースティン『高慢と偏見』 61

「そりゃだめよ」と、エリザベスが言った。「二人ともいい人にしようったって、そりゃ無理よ。どっちかにきめなくちゃ。一人だけで満足しなければだめよ。二人の間には、ちょうどあわせていい人が一人できるくらいの価値の量しかないのよ。」(40) 美人姉妹と…

J.オースティン『高慢と偏見』 34

わたしはロマンチックな女じゃないわ。昔からそうなのよ。わたしはただ楽しい家庭がほしいんです。そしてコリンズさんの性格や親類関係や身分を考えると、あの人と結婚すれば、世間の人たちが結婚生活にはいって、自慢するくらいのしあわせはきっとえられる…

J.オースティン『高慢と偏見』 19

そんなふうに、詩に負けて恋をすてた人は、今までにずいぶんたくさんいたようですね。恋を忘れるためには詩がやくにたつということを、はじめて発見した人は誰なんでしょう?」(9) これは、私の偏見と言っていただいて良いが、英文学というのは他言語の文…

E.ブロンテ『嵐が丘』 第三十三章

『いま一度あいつを腕に抱こう! 冷たくなっていたら、俺が凍えているのはこの北風のせいと思い、動かなければ、眠っているんだと思おう』(第二十九章) ある一定の時期まで、小説にはたしかに二つの機能が存在していて、『嵐が丘』は最も成功した作品のひ…

E.ブロンテ『嵐が丘』 第十五章

奥様は三日目に、ようやく寝室のドアの錠をはずしました。水差しとデキャンターの水を飲み干すと、もっと注いできてと云い、オートミールのお粥も所望されました。自分は死んでしまうに違いない、と云うんです。ははあ、これはエドガー様に聞かせたい台詞だ…

E.ブロンテ『嵐が丘』 第九章

「入っておいで! 入っておいで!」と云って、すすり泣く。「キャシー、さあ、こっちだよ。ああ、お願いだ――せめてもう一度! ああ、わが心の愛しい人、こんどこそ聞き届けておくれ――キャサリン、今日こそは!」(第三章) ヒースクリフというのは不思議な主…

A.チェーホフ『ワーニャ伯父さん/三人姉妹』 「ワーニャ伯父さん」

嫌いだな、そういう哲学。(33ページ) 私がいまの会社に入るのを決めたとき、読んでいたのが車谷長吉の「漂流物」で、そのなかのひとりの登場人物が、「入社式のとき、『ああこれでおれの人生は終わった』、と思った」と言っている。今回、この「ワーニャ伯…

F.M.ドストエフスキー『地下室の手記』第二章

「どうしてお墓の中に水が?」女は、幾分好奇心を示して訊ねたが、口のきき方は、前よりもいっそうぞんざいで、ぶっきら棒だった。俺は、不意に何かにそそのかされた。 「そりゃそうさ。そこに三十センチほども溜まってるんだ。ここのヴォルコヴォ墓地じゃ、…

F.M.ドストエフスキー 『地下室の手記』第一章

しかし、仮にその敵意、悪意さえも俺にはなかったとしたら(なにしろまさに俺の話はそこから始めたわけだが)いったいどうしたらいいのか。俺の敵意は、例の呪わしい意識の法則の結果、化学分解を起こしてしまう。見る見るうちに対象は消え失せ、論拠も蒸発…