21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

堀江敏幸『回送電車』 「リ・ラ・プリュス」

フィルターなしのゴロワーズやジタンを喫むくらいなら自分で巻いたらどうだ、とありがたくもない忠告をしてくれたのは、そのころパリでよくつきあっていたモロッコ人の友人だった。218ページ)

『回送電車』の第四部には様々なものに関する想い出、愛着が述べられているのだが、この「リ・ラ・プリュス」は「RIZLA+」という製品名の読み違いを元に、杉本秀太郎氏の解説、そして著者による返歌である「リ・ラ・プリュス・プリュス」と、思いもよらない展開をし、最終的にはイギリス映画「トレインスポッティング」を思わせる物語へと変成を遂げる。
 しかしながら、「マイルドセブン」が400円を超える値付けになる、といわれている昨今、それこそゴロワーズがひと箱100円以下で買えてしまう最後の喫煙天国に住んでいる私としては、この一節は「葉組」というもののありがたさを感じさせてくれる文章であった。タバコを作っている会社の人によれば、日本で売られていようとロシアで売られていようと、この葉組というものは変わらないらしいのだが、どうにもわれわれ凡人喫煙者からしてみれば、ロシアで売られているタバコよりも日本の免税店で購入してきたタバコの方がうまい。原料の葉にも違いはあるのかもしれないが、著者が苦心して手巻きの煙草を組み上げる一節を読んでみれば、ああ、なるほど絶妙の配置で煙草をすでに巻いてくれている人々にこそ感謝をすべきなのであり、この味の違いはあたかもシェフの心が料理の味に出る、という料理漫画のように、タバコ工房の愛こそが根底となっているのかと思わせる。
 で、「葉組」という言葉の使い方はこれであっているのかどうかはよくわからない。

なんでもよく知っている年上の友人は、そんなこともわからないのかと小馬鹿にするように説明してくれたものだ。まず現場にクレーンを立てて、その周囲に数階分の建物を造る。高さに余裕がなくなったところで最上階に本体を固定し、マストの部分を油圧で持ちあげ、基部を最上階に固定してやると、今度は本体がマストを伝ってうえにのぼっていくんだよ。(青い帽子の男)