21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

中野渡進『ハマの裏番 もつ鍋屋になる』

ちなみに野球界をコンビニに例えれば巨人・阪神は弁当、中日はドリンク、ヤクルトは雑誌、広島はフリスクベイスターズはホチキスの芯ぐらいだろう。(第一章「口は災い・・・・・・突然の『戦力外通告』)

 この本はけっこう泣ける。いや、俺が弱っているだけかも知れないが。笑える部分も多いけれど泣ける。だれしもが、頭を踏みにじられるような経験を、生きているうちにしないといけないのだろうとは思うが、子供のころから積み上げたプロ野球選手の努力が踏みにじられる場面には(っていうか、その場面から本がはじまるのだが)、どうしても涙してしまう。
 アラ筋を言えば、毒舌キャラで売っていた中継ぎ投手が、死ぬほど投げて故障し、死ぬ思いのリハビリで故障から復帰したのに干され、戦力外通告を受けて、第二の人生としてもつ鍋屋を開業するまでの話だ。中野渡という投手は、名前が珍しいから記憶にあるが、たぶん名前が「中野」だったら忘れていたくらいの選手だ。申し訳ないけど。
 ただ、人間が自分の力の限界まで戦ったとき、どれだけ世界が残酷にふるまい、しかし、それでもすばらしい一面を持っているか、ということをこの本は教えてくれる。自分の力の限界を知ることの辛さ、限界とはいえまだ一線でやれるのに見向きもされないことの辛さ、そしてその姿を見てくれている人がいることの有難さ。ともかく、とても美しい本だった。

(『ハマの裏番 もつ鍋屋になる』 ミリオン出版