21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

綿矢りさ『勝手にふるえてろ』

私も半休ばかりで入社してから海外旅行なんて一回も行ったことがなかった。有休はほとんど取らないうちに三年ごとにリセット、お母さん私の有休は一体どこに行ったんでしょうね、消化されたのよ、なにに、社会に。(136ページ)

 芥川賞同時受賞のときは、どちらかというと『蛇にピアス』推しだったのだけれど、これを読んで、『蹴りたい背中』実力を上げたな、と思う今日このごろ。かなり無理矢理な文章のリズムがむしろしっくりくるように、ゆっくり推敲されているのが見えて、とても楽しい。とくに引用した部分なんて、主人公が偽装妊娠でズル休みをしようというハードコアな内容の流れで、ずいぶん本気なOLの愚痴から一転してジョー山中。一瞬クスリとさせられてから、とつぜん登場したお母さんが随分強引に〆るところがいい。いったいどうして急に『人間の証明』をしたくなったのか、とても気になるけれど、なんかこの本はとてもよかった。

(『勝手にふるえてろ』 文春文庫 2012)