21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

ロシア映画メモ2 ウラジミール・ハチネンコ「ドストエフスキー」(後編)

 さて、後編。各話について、ちょっと詳しく書くので、ネタバレがいやな人は見てはいけない。

第一話:ペトラシェフスキー事件に連座しての死刑執行のシーンから、シベリアでの監獄生活が終わるまで。ともかく、「セットにお金かかってるなー」と感心する。とくに、おそらく粉ひきの器械なのだろうが、人間が大きな車輪を押してまわすやつ。(『キン肉マン』の読者なら、ウォーズマンが超人墓場で回していたアレを思い浮かべるべし)。よくこんなの作ったな、と思っていたが、後半でアレのイメージとして使用されるのか・・・・・・第一話のポイントは、以後も劇中にドストエフスキーの小説の登場人物(ラスコーリニコフとか)が投入されるのだが、ここで娼婦リーザ(『地下室の手記』)投入。そもそもシベリアの監獄まわりに娼婦がいたのか、という疑問はさておき、これがえらい美人。画面が暗いシーンなのもあるだろうが、主役級の3人の女性を食ってしまうくらい美人だ。個人的には、『カラマーゾフの兄弟』のリーザもイメージしているのではないか、と思ったが、穿ちすぎか。
第二話:シベリア流刑。第一話の最後でマリア・イサーエヴァに会ったので、彼女とドストエフスキーのなれそめが描かれる。この辺はともかくチュルパン・ハマートヴァをぼーっと見るしかない。
第三話:マリアと結婚してからの生活。話の軸はサーシャ・シューベルト夫妻を軸に回っていって、創作と文学の集まり、さらに観劇にまで熱をあげるドストエフスキーに、マーシャが「あなたの生活のどこに私はいるの?」と問いかける、といういかにもなメロドラマ。挙げ句の果てにはシューベルトドストエフスキーがデキてしまいそうになる。
第四話:ペテルブルクに帰還。ドストエフスキーは愛人アポリナーリヤ・スースロヴァと出会う。メロドラマはさらに加速するが、ポイントはアポリナーリヤの足がきれいに描かれていることと、この足をつかった拘束プレイだろう。全体に、第一話の地味な監獄編を後半に巧く生かしている所が演出上おもしろいが、この拘束プレイはちょっと笑う。
第五話:アポリナーリヤとの欧州不倫旅行。知ってる話だけれど、こうして映像として見ると、結核の妻を放置して愛人と旅行し、さらに旅先で愛人にまで捨てられ、ルーレットに狂うなんてドストエフスキー、最低だ。でもこの最低感がよくでていてすばらしい。
第六話:マリアと兄ミハイルを亡くし、アポリナーリヤとも別れてどん底にあるドストエフスキーからはじまるが、ドストエフスキーの伝記ファンとしては、この回は「ソーニャ・コヴァレフスカヤたん、キター!」と叫ぶべき回。方程式をもって登場するとか、なんてベタな演出なんだ・・・・・・ソーニャがドストエフスキーに告白するとか、どこまでメロドラマを盛り上げるつもりなんだ?とツッコミたくなるが、ソーニャがいい。そして、その場面のアメがいい味を出している。
第七話:ステロフスキーの陰謀にひっかかり、一箇月で長編をおさめないと、以後の作品の版権をすべて取り上げられる、というドラマチックな展開と、速記者である二人目の妻アンナとの共同作業。とても有名な伝記上のシーンだが、よく描けている。しかし、プロポーズのシーンは、妻アンナの手記そのままに描かれているが、歯が浮くことこの上ない。
第八話:アンナと欧州を流浪しながら、『白痴』を書き上げ、ペテルブルクで『カラマーゾフの兄弟』に着手するまで。ラストシーンがウラジミール・ソロヴィヨーフと森に消えていく、というところがわりとよかった。