21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

ロシア映画メモ1 ウラジミール・ハチネンコ「ドストエフスキー」(前編)

2月くらいから、ぼちぼちとロシア映画をDVDで観ていて、何個か感想も書いてみていたのだけれど、どうも「100%オススメ!」というものにめぐりあえなかった。しかし、この「ドストエフスキー」はいい。正確に言うとスクリーンにかかるものではなくて、テレカナル「Russia1」で放映された、ロシア流のテレビ映画だけれども。
 いちおう、ネタバレ防止のために、基本情報をこの「前編」に、内容を含めて「後編」に分けて書いてみる。しかしまあ、日本語はおろか、英語の翻訳もまだでていないみたいなので、ネタバレを気にする必要があるのかどうか疑問だが。

ドストエフスキー」(2011、ロシア)
監督:ウラジミール・ハチネンコ
脚本:エドアルド・ボロダルスキー
出演:
ドストエフスキー エウゲーニー・ミローノフ
マリア・イサーエヴァ チュルパン・ハマートヴァ
アンナ・スニートキナ アーラ・ユガーノヴァ
アポリナーリヤ・スースロヴァ オルガ・スミルノヴァ

 ともかく、この映画は女優の顔がいい。ドストエフスキーの最初の妻マリアというのは、伝記上はそんなにいいイメージのない人だけれども、これを人気女優チュルパン・ハマートヴァが好演。「ルナ・パパ」とか、「グッバイ・レーニン」で、妖精のようなロリ系の美しさを見せていた彼女だが、最近、アレクセイ・ゲルマン・ジュニアの「ブマージヌィ・ソルダート(紙の兵隊)」で見せたような、どちらかというと軽い老け役(40代くらいのイメージ。なんていうか、「踊る大走査線 The Movie」で、小泉今日子を見たときのような、ちょうどいい感)で実力を見せている。マリア・イサーエヴァというのは、結核にかかった運命への恨みをときどき見せる難しい性格のひとでもあるし、いろいろ男性を渡り歩いたりもするのだけれど、チュルパンはほんとうに厭味なくイヤミにこれを好演。
 二人目の妻アンナは、伝記上は美人というイメージはないけれど、オーソドックスな美人がこれを演じている。しかし、髪の毛や服装がちょっとやぼったかったりして、同じ欧州旅行の場面でも、愛人のアポリナーリヤの正装がばっちりきまっているのに対し、なんだかお仕着せ感がただようところがいい感じ。一方、アポリナーリヤは、どうみても頭の中はからっぽそうなんだけれど、その冷笑に不思議な魅力がただようところに説得力がある。なんだか見ていて、この人は冷笑するために生きているのではないか、と思えた。
 加えてドストエフスキーのエウゲーニー・ミローノフも、ちょうどいいブサイクで、私のイメージに合っている。毎回のオープニングはペーロフに肖像画を描かせる所からはじまっているのだけれど、これはトレチャコフ美術館で見られる肖像に似たメークがばっちり決まっているし、なんだかネットを見ると、ドストエフスキー研究者から批判もあったみたいだが、とってもはまり役である。
 最後にひとつ、作品中ではドストエフスキーの流転の人生をあらわすのに、子供時代のドストエフスキー一家がヨーロッパ地図をつかってさいころ遊びをしている場面が何回も使われるのだけれど、ここで「なんてありきたりな文芸映画の手法だ!」と怒ってはいけない。ポイントは、兄ミハイル役の子役がずっとインディアンの扮装をしているところである。ドストエフスキー・マニアなら、ここで「キター」と叫ばなければいけない。
はてなはロシア語がでないので、すごく文字化けしていますが、下記は映画ポスターへのリンクです)

Достоевский (2010) - постеры фильма - российские фильмы и сериалы - Кино-Театр.РУ