21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2012-01-01から1年間の記事一覧

4月の読書メーター

4月の読書メーター読んだ本の数:8冊読んだページ数:2587ページナイス数:0ナイス順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)読了日:04月27日 著者:グレッグ イーガンシェイクスピア全集 (3) マクベス読了日:04月15日 著者:W. シェイクスピアうほほいシネクラブ (…

佐野眞一『甘粕正彦 乱心の曠野』

弁護人は、なぜ事件と無関係な先祖のことなど聞いたのか。実はこの質問は、次に続く一連の質問への周到な伏線だった。甘粕の答弁が終わると、弁護人はすかさず聞いた。 ——被告人は日頃からたいへん子どもを愛しているようですが、それはなにゆえですか。 (…

大庭みな子「寂兮寥兮(かたちもなく)」一

「明かるい雪の畦道を野辺送りの行列が通って行った。あたり一面銀世界で、田の水だけが黒かった。乳色の柔らかな雲の間から、陽が洩れ、ときどき思い出したように白い雪の花びらが舞い落ちた。 四人の若い男が花嫁の輿をかつぐ晴れやかな顔で、柄のついた板…

反省

最近、じぶんの文章をまったく読み返していなかったが、気持ちわるくなるくらい誤字が多いことに気付いた。そんなわけで、3月以降の文章を修正しました。反省し、徐々に直していこうと思います。

雑感

いま33で、もうすぐ34歳になるのですが、最近になってやっと、世界が立体でできていることに気付いたような気がします。

馳星周『沈黙の森』

「カモシカでもいるのか?」 田口は疾風の視線の先を追った。樹木を鎧代わりにした山が風雪に抗っている。空は絶え間なく降り続ける雪に塗り潰されていたが、山はまだ闇の底に沈んだままだ。枝擦れの音が苦悶の声のようだった。 田口が歩を進めると、疾風は…

今月読んだ捨ておけぬ3冊(3月編)

スタニスワフ・レム『高い城・文学エッセイ』(芝田文乃ほか訳、国書刊行会) ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング『ディファレンス・エンジン』(黒丸尚訳、ハヤカワ文庫SF) 津原泰水『バレエ・メカニック』(ハヤカワ文庫JA) 番外 『諏訪敦絵…

3月の読書メーター

3月の読書メーター読んだ本の数:10冊読んだページ数:3348ページナイス数:0ナイス朝鮮近代史 (平凡社ライブラリー (267))読了日:03月31日 著者:姜 在彦高い城・文学エッセイ (スタニスワフ・レム コレクション)読了日:03月31日 著者:スタニスワフ レム…

津原泰水『バレエ・メカニック』

「一面においてね。だから性衝動に満ちてもいる。いま新宿をさまよっている貴方は理沙ちゃんにとって、父性を感じさせる見知らぬ男ーーアニムスに過ぎない。女性はおおむねアニムスに対して肯定的なの。彼女が貴方を父親として認識しているだろうというのは…

『諏訪敦絵画作品集 どうせなにもみえない』

3月のはじめに東京出張があって、銀座のブックファーストで購入。その後、2週間くらい、じっくり浸りながら眺めていた。画集を語る能力はとてもではないが持ち合わせないので、なぜこの本を手に取り、購入するに至ったのか(端的に言えばブックファーストの…

S.レム『高い城・文学エッセイ』「高い城」

私たちがこの世に生まれるとき、私たちを支配下に入れる二つの勢力、二つのカテゴリーのうち、空間はまだはるかに理解しやすい。もちろん空間も変化するが、その本質は単純だ。空間は時が経つにつれて縮む一方である。だから私たちのアパートの居住空間はゆ…

飴村行『粘膜戦士』 「柘榴」

不意に西側の庭で物音がした。靴底が地面を蹴るような音だった。昭の心臓が大きく鳴った。何者かがこの音を発しているのかもしれなかった。昭はベッドから下りると昇降式の窓に駆け寄りカーテンを引き開けた。外は月夜だった。青白い満月が夜空に浮かんでい…

J.M.クッツェー『遅い男』

最近わたしはそう思い直しているよ。気のひとつも動転することが、もっとあっていい。眦決して鏡を覗いてみるべきだよ。そこに映るものに嫌気がさすとしても。時間による荒廃ぶりを言っているんじゃない。ガラスのむこうに閉じこめられた生き物のことを言っ…

2月の読書メーター

2月の読書メーター読んだ本の数:9冊読んだページ数:3435ページナイス数:0ナイス遅い男ミラン・クンデラ系の「スベリ芸」だと思うのですよね。最後の赤面の場面は、もろに『冗談』を想像したのですが、エリザベス・コステロが出てくるあたり、腑に落ちない…

今月読んだ捨ておけぬ3冊(2月編)

前項は読書メーターのまとめをそのまま貼り付けているのだが、たまに感想書いてると、自分の感想がウザいな・・・と、いうのはさておき、今月の3冊。佐野眞一『巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀』 読んだあと、興奮覚めやらずに年表から参考文献表まで…

C.L.ムーア「美女ありき」 小尾芙佐訳

彼女はメタル・メッシュの衣の襞が体にまといつくのを静かに待った。衣は遠くで鳴る小さな鈴のように、チリチリとかすかな音をたててすべりおち、刻まれた襞となって淡い金色に輝いて垂れていた。彼も無意識に立ちあがった。そして向かいあって彼女を凝視し…

今日の妄想

漫☆画太郎先生の漫画化で、「千と千尋の神隠し」を読んでみたい。

佐野眞一『あんぽん』

孫はさらに話を続けて、三十年後の電子メディアには、テレビの情報に直して三万年分、音楽の楽曲に換算すると、五千億曲分に相当する情報量が入ると言った。その上で、紙の本に関して言うならば、三十年後には紙の本は美術工芸品の領域に入っている、とまで…

J.G.バラード『人生の奇跡』第十八章「残虐行為展覧会」

感情、そして感情的な共感が枯れ果て、偽物がそれ特有の真正性を帯びる。わたしはさまざまな意味で傍観者であり、静かな郊外で子供を育て、子供同士のパーティーに送ってやり、校門の外で母親たちと立ち話をするのが常だった。だがそれ以外のパーティーにも…

J.G.バラード『人生の奇跡』 第十四章「決定的出会い」

モダニズムの中心には「自己」が横たわっていたが、今そこには強力なライバル、日常世界があった。それは「自己」と同じように心理的構築物で、同じように謎に満ち、ときに精神病質の衝動をしめす。この禍々しき領域、気が向けば次のアウシュヴィッツ、次の…

佐野眞一『巨怪伝』第十一章「国士と電影」

最近、夕食を食べながら、古いNHK大河ドラマを眺めているのだが、ひょっとすると戦争というのはたいがい電撃戦で、平和ボケしている人々を突然の嵐のように何者かが襲うところからはじまるのではないか。子供のころから「信長の野望」に毒されて、陣取りゲー…

古井由吉『始まりの言葉』 「「時」の沈黙」

ここにも矛盾はある。科学は究極不滅の原理である存在への探求を断念したところから、近代へと離陸したはずなのだ。「創造」を解除されたとでも言うべきか。究極の作動主である一者の干渉の絶えた空間と時間へ探求を限定したその上で、そこに生じた無差異、…

J.G.バラード『人生の奇跡』 第八章「アメリカの空爆(一九四四)」

迫りくる米軍機の機影は、わが思春期の憧れにあらたな焦点を結んだ。頭上、地上三十メートル足らずの低空を電光石火で飛びすぎるムスタングの姿は、あきらかにこれまでとまったく異なるテクノロジーの論理にのっとっていた。エンジンのパワー(英国で設計さ…

『伊藤計劃記録 第弐位相』

本田美奈子の死と、宇宙戦争という映画は、ぼくのからだに起きた理不尽なできごとを経由して繋がっている。あなたは、体と心中するしかない。叙事的な映画というのは、そういうことを嫌でも感じさせてくれる。(11-10, 2005) 前巻の(、というべきか)『伊藤…

古井由吉『始まりの言葉』 「二〇世紀の岬を回り」

しかし探検の航海であるからには、仮りに幻想はもはやなくても希望は希望の、欲望は欲望の、もはや自動的(オートマティック)なものに化しても意志は意志の、冷たく凝固した顔なのだろう。大航海時代の冒険精神と人は取る。その背後にはしかし科学精神の展…

1月の読書メーター

1月の読書メーター読んだ本の数:13冊読んだページ数:4004ページナイス数:0ナイス伊藤計劃記録:第弐位相読了日:01月30日 著者:伊藤 計劃ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)読了日:01月22日 著者:リチャード P. ファインマン楽園へ…

J.G.バラード『楽園への疾走』

「未来? ニール、核兵器なんかとっくに時代遅れよ」 「ぼくにとってはそうじゃないんだ」ニールはリモコンを彼女に向けてミュートボタンを押した。「サン・エスプリ島の重要な点は、あそこではまだ原爆を爆発させていないということなんだ」 「だから?」 …

野村克也『野村ノート』

最近は『伊藤計劃記録 第弐位相』を読んでいるのだが、その前のやつで出しつくした結果、カフカ的な状況に陥っている短篇類はおいておくとして、ブログからの転記に打ちのめされている。本人が書きなおしたわけでもないのに、ブログの文章でこの読みごたえは…

松井浩『打撃の神髄 榎本喜八伝』

ふと飛行機の窓の外を見ると、地上に赤茶けた大地が広がっていた。緑などどこにも見当たらない、地球の地肌を剥き出しにしたような赤茶けた大地だった。やがて大地がなだらかに盛り上がり、丘になっているのが見えた。だが、ふもとから丘の上まで、道らしき…

A.C.クラーク『2001年宇宙の旅』

ニュースパッドこそは、その背後にひそむすばらしいテクノロジーも含めて、完全なコミュニケーションを追求する人類にとって最後の回答ではないか。フロイドはときどきそんな思いにとらわれる。いま彼は宇宙はるかに乗りだし、毎時一万キロを超える速さで地…