21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

山田均『世界の食文化5 タイ』第二章

 最近、食文化一般に興味があるのはさておき、ともかく、トムヤンクンとグリーンカレーが好きだ。だから、この本を読んだのだが、校正・考証ともに緻密に考え抜かれた、非常にエキサイティングかつ、刺激的な本である。
 まるで吉田修一の小説を読んでいるかのように、第一章でバンコクに住む人びとの食生活群像を目にした後、読者は第二章で、タイの歴史と食文化の形成を見ることができる。
 「あとがき」にもあるが、古くからタイ族の主食は米であり、おかずの代表は魚である。その意味で、タイの食文化は日本に限りなく似ていると言ってもいいだろう。西欧列強からも独立を守り、「王国」を維持している、という点でも共通点はある。しかし一方で、世界中の食がごちゃごちゃに流入している日本とは違い、タイ人はその根源であるタイ料理をずっと維持してきた、ということは読み取れる。関わりの深い中国との関係でも、あくまでも融合で、そこら中に中華料理屋やイタリア料理屋が乱立する、という日本の仕方とはちがう。融合とは、たとえば日本料理で言えば、中国由来の豆腐や醤油を取り入れて日本料理を発展させる、という仕方だ。
 そのどちらが良い、ということではないが、似ている部分が多いだけに、そのアイデンティティの在り方の違いは面白い。

(『世界の食文化5 タイ』 農文教)