21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

J.M.クッツェー『マイケル・K』 第二章

彼はまるで石だ。そもそも時というものが始まって以来、黙々と自分の仕事だけを心にかけてきた小石みたいだ。その小石がいま突然、拾い上げられ、でたらめに手から手へ放られていく。一個の固い小さな石。周囲のことなどほとんど気づかず、そのなかに、内部の生活に閉じこもっている。こんな施設もキャンプも病院も、どんなところも、石のようにやりすごす。戦争の内部を縫って。みずから生むこともなく、まだ生まれてもいない生き物。実をいうと私は、彼のことを一人前の男だと考えることができない、どう数えても私よりも年上だというのに。(198ページ)

 第一章で、マイケル・Kが世界とのつながりを見出したとすれば、第二章では世間と隔絶したマイケルを一人の医師が語る。「本来の食べ物」ではないものを拒否して、痩せ衰えていくマイケル。医師はマイケルの存在に揺さぶられながらも、したり顔で彼を語る。あるいはかれ自身もうすうす気づいているように、そんな在り方が、マイケルの到達した場所からはいちばん遠いのかも知れない。
 第三章でマイケルは不思議な、しかし平凡なような若者の一群と出逢い、食欲を取りもどす。