21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

山田均『世界の食文化5 タイ』 第三章

 むかし景山民夫のエッセイの中に、中華料理を食べに行くなら大人数を集めなければならない、というのがあったが、本書の第三章では、五〜七人でタイ料理を食べるヴァーチャルの旅ができる。中部タイ(バンコク)、北タイ、東北タイ、南タイの四か所の料理を、実際に食卓を囲んでいるかのような感覚で満喫できる。レストランでメニューを眺めているのは楽しいものだが、そんな感覚を持続して楽しむことができるのだ。
 さらには注文した料理に、註としてレシピがついているのも面白い。ただこのレシピ、かなりハードコアである。もう一つのタイ料理の名著『やすらぎのタイ食卓』(めこん)がレシピに、日本でも購入できる市販のカレーペーストをあげているのとは対極的に、カレーペーストから臼で搗いて作ることが前提となっている。

「干しトウガラシの種をとって水に漬けたもの…五個、ホーム・デーンの細切り…五個、ニンニクの細切り…二粒、カーの細かく切ったもの…三ウェン、レモングラスを細かく切ったもの…大さじ一杯半、コブミカンの皮を細かく切ったもの…小さじ半杯、パックチーの根を細かく切ったもの…大さじ一杯、パックチーの実を炒ったもの…大さじ半分、イーラーを炒ったもの…小さじ半分、コショウ…五粒、塩…大さじ半分、カピ…大さじ半分
⇒これらをクロックの中で搗き潰す」

 上記がカレーペーストのレシピ。ホーム・デーン(アカワケギ)やカピ(エビペースト)も説明されず、当たり前のように載っている。一方で、『やすらぎのタイ食卓』では豚の生肉のラープを食べているのに、本書では絶対に火を通さなければならない、としているなど、個人差が出て面白い。やはり食文化についての本を書くには、身体を張った取材が必要なのだろう。