3月16日付 新聞書評メモ
今週はけっこう書評欄が当たりです。
【毎日新聞】
☆池澤夏樹評
エンリーケ・ビラ=マタス『バートルビーと仲間たち』(木村榮一訳 新潮社)
またまたラテンアメリカ文学だが。何者でもあるまいとして生きる、メルヴィル作品の登場人物バートルビー。そのバートルビーになぞらえて、「書かないこと」にした作家たちにまつわる断章を集めたものが本書らしい。「書かない」という姿勢はあまり好きではないのだが、興味のある本ではある。
☆張競評
原克『流線型シンドローム ―速度と身体の大衆文化誌』(紀伊國屋書店)
アメリカ、ドイツ、日本の三箇所において、「流線型」という科学イメージがどのような展開を見せたか。なんともそそる内容。
【日本経済新聞】
先週、毎日で書評されていたコルタサル『愛しのグレンダ』が、今週は日経で、上のビラ=マタスの訳者でもある木村榮一さんに書評されており、これまたよかった。
☆森岡正博評
レオン・R・カス『治療を超えて』(青木書店)
米国の生命倫理評議会が、ブッシュ大統領に出したレポート、というだけで興味をそそる。
☆長堀祐造評
莫言『転生夢現』(吉田富夫訳 中央公論新社)
あまり中国文学に興味はないのだが、中国の現代五十年史を輪廻転生をうまく使って前衛的に描く、となれば面白そうである。
☆吉田司評
フィリップ・ショート『ポル・ポト』(山形浩生訳 白水社)
会社でとある人が、暖かい国の人間は虐殺などしない、と言っていたが、その大きな例外のポル・ポト。中学生のころ、熊岡路矢『カンボジア最前線』という岩波新書にはかなりの衝撃を受けたのだが、その後、あまり勉強してこなかったジャンルだけに、興味がある。