3月9日付 新聞書評メモ
【毎日新聞】
☆小島ゆかり評
『雨の言葉 ローゼ・アウスレンダー詩集』(加藤丈雄訳 思潮社)
前世紀の過酷な時代を生きた、ユダヤ系ドイツ詩人による詩集。まったく未知の人だが、書評に引用された詩が美しいので心惹かれる。
☆富山太佳夫評
カルロ・コルドーニ『コルドーニ喜劇集』(斎藤泰弘訳 名古屋大学出版会)
このテの学術的な古典翻訳は、読み始めて面白くなるまでかなりの努力を要するが、いざ面白くなると何ものにも代えがたい。時間があれば、気合いを入れて読み始めたい一冊である。
☆田中優子評
深沢克己『商人と更紗 ―近世フランス=レヴァント貿易史研究』(東京大学出版会)
今週は毎日新聞の書評「らしさ」が出ていて、書評欄が面白い号だったと言えるだろう。これも、読み始めれば面白いにちがいないが、読むには気合いのいる研究書。
【日本経済新聞】
☆書評委員評
ジャン・ヴィトー『ガストロノミ』(佐原秋生訳 白水社文庫クセジュ)
最近、また食文化にたいする関心が高まっているだけに、医師が料理の楽しみを小難しく書いた本、というのは関心を引く。文庫クセジュは楽しみ方がむずかしいが、ともかく誰も出さないようないい本を出す。
☆森岡正博評
オイゲン・ヘリゲル『日本の弓術』
書評は、新渡戸稲造『武士道』にも話が及び、「誤解」のおもしろさを語った名文。西洋の意識論に、日本の伝統文化をからめるのはたしかに拡大解釈だが、拡大しているだけにこれほどおもしろさが明確になるものもない。