C.L.ムーア「美女ありき」 小尾芙佐訳
彼女はメタル・メッシュの衣の襞が体にまといつくのを静かに待った。衣は遠くで鳴る小さな鈴のように、チリチリとかすかな音をたててすべりおち、刻まれた襞となって淡い金色に輝いて垂れていた。彼も無意識に立ちあがった。そして向かいあって彼女を凝視した。彼女の体がまったく静止するさまを彼は一度も見たことがなかったが、それは今も変わらない。(178ページ)
たゆたう、ゆれる、ひらめく、つつむ。これは、襞についての物語だ。絶世の美女といわれた歌姫ディアドリは、火事で肉体をうしなうが、科学者、技術者、芸術家たちの偏執狂的な熱意によって、金属の歌姫として蘇る。身体と意識についての先駆的なSFとして、いくらでも面白くなりそうな会話は、かったるいことこの上ないのだが、肉体を失っても美しさを失わず、むしろ逆説的にしなやかさを増したという彼女の動きが、物語に説得力を与える。
ディアドリ以上に多くを語っている、彼女をつつむ金色のメタル・メッシュの服、そして、その襞がこの作品の主人公なのだろう。ヨーロッパの美術館に行って、いつも思うことだけれども、どうして芸術家というのは襞にこれほどの情熱を注げるものなのか。