今月読んだ捨ておけぬ3冊(2月編)
前項は読書メーターのまとめをそのまま貼り付けているのだが、たまに感想書いてると、自分の感想がウザいな・・・と、いうのはさておき、今月の3冊。
佐野眞一『巨怪伝 正力松太郎と影武者たちの一世紀』
読んだあと、興奮覚めやらずに年表から参考文献表まで読んでしまうノンフィクション、というのもそうはない。個人的には、正力に関わったものたちが、「正力のことなど思い出したくもない」と言いながら、最後には「大正力の仕事に関われて幸せだった」、というというエピローグか。まるで、『一九八四年』のラストを見ている気がした。
『人生の奇跡 J・G・バラード自伝』(柳下毅一郎訳)
これに関しては、何回も書いているけれど、やはりアメリカ軍機の飛ぶシーンが忘れがたい。同時に現代において、モノが記号である、というのははたして自明か?という疑問も浮かんできた。バラードの鮮烈な記憶を見せつけられると、かえって自分のまわりの物どもは、ただのモノにしか見えない、というのは不思議なものだ。
J.M.クッツェー『遅い男』(鴻巣友季子訳)
これについては、次回書くので多くはひかえるが、やはりスベリ芸の系譜に連なる小説のように思えた。スベリ芸の極意とは、読者の視線を宙にさまよわせることにあるだろう。とんでもないズッコケを用意して、読者をポカンとさせるミラン・クンデラ、読者の共感を微妙に排除して、上滑り感の中にとらえてしまうカズオ・イシグロ、その両方に似ているようでいて、どちらにも似ていない。