21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

J.バーンズ『イングランド・イングランド』 第二章

だが、たとえ起こらなかったにせよ、そのイメージとその瞬間は賞賛しなければならない。そこにこそ、人生の大切な細部があった。(233ページ)

 謎の敏腕経営者、サー・ジャック・ピットマンの早期退場。イングランドの中にできたイングランド、テーマパーク「ジ・アイランド」と、本書の第二章をすこし平凡にしてしまった原因はこれにつきるだろう。現代において、楽しみは単純な楽しみではなくなり、「娯楽産業」の一部になっている、とサー・ジャックは考える。ここまではありきたりだが、彼はこれを進歩と考えるし、その理由が、発達した芸術娯楽産業のなかでしっかりプロデュースされていれば、ベートーベンはもっと幸福だったろう、というのが奮っている。この独創的独裁者にまかせておけば、イングランドイングランドは、もっと俗悪で極端な世界になったかも知れない。しかし、サー・ジャックは、マンガ的にも「赤ちゃんプレイ」が原因で失脚する。(自分のヴィジョンを部下に伝えられなかったのだから、きっといい上司でなかったのだ)。
 記憶と歴史の正当性を疑うマーサがCEOになってから、この世界はより単純に観光地化される。

これはまさに未来の姿と言えよう。この島はあなたがイングランドに対して思い描いているあらゆるものを、より快適に、より清潔に、より親しげに、そしてより効率よく体験させてくれる。(180-181ページ)

 断片の記憶を嫌悪するマーサだが、彼女がそれにマニアックな思いを抱いていなかったがゆえに、作った世界はより断片化せざるを得なかった。その事実はこの作品自体にシニックな笑いを投げかけているようにも見える。