21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

村上春樹『東京奇譚集』

 たぶん21世紀を代表する作家のひとりである、村上春樹の短篇小説集なのだが、正直なところ非常に単純な怪談話である。それは、ドッペルゲンガーだったり、幽霊だったり、神隠しだったりするが、とくにこれといった展開もなく、普通に物語が終わっていく。それはあたかも「一杯のかけそば」のように単純な物語である。(いや、「一杯のかけそば」は、いったいどこを読んでよいか分からない、という意味で非常に複雑な話ではあるのだが)。
 ひょっとすると、この21世紀を代表する作家は、21世紀の読者の読解力に合わせて物語を書いたのかもしれない。ともかくかつて「パン屋再襲撃」や「納屋を焼く」を書いた作家に、こういうものを書かれるとガッカリしてしまう。

(『東京奇譚集』 新潮文庫