21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

4月27日付 新聞書評メモ

 さて、ブレイクスルー。出版界もゴールデンウィークに向け、仕事を急いだのか、読みたい本が書評に集まってきた。ここのところ本を読むこと自体が不調だったが、これでまたどしどし読めるかも知れない。

毎日新聞
堀江敏幸
蜂飼耳『転身』(集英社
 現代で最良の書評家は、おそらく堀江敏幸氏であると思う。何を紹介されてもその本を買う気になるし、研究者らしい記述のたしかさと、小説家らしい文章の丹精が同居しているのは氏の書評だけだ。「しかし、読者は水面に少し顔が出ているような状態で、緊密なのになぜかすうっと横に滑っていく言葉の連なりを読めばいいのだ。」さて、本書は大学でロシア文学を勉強した主人公の物語らしい、それだけでも、読まねばなるまい。

丸谷才一
リック・ゲコスキー『トールキンのガウン』(高宮利行訳 早川書房
 友人に刺激されて生まれて初めて買った全集を、ガールフレンドへのクリスマスプレゼント代を捻出するために売っぱらったら儲かってしまったことから、古書商になった英文学講師の体験記。これも、おもしろそう。

☆自著評
寺尾紗穂『評伝 川島芳子』(文春新書)
 完全に余談だが、私は高校の時の文化祭で「川島芳男」という役をやった。男子校だからやむを得ず、川島芳子を100パーセント男にしたのである。修士論文が元というだけに、それほどの深さは期待できまいが、縁が深いだけに、これも読みたい。

☆書評委員評
先崎学『山手線内回りのゲリラ』(日本将棋連盟

日本経済新聞
田中和生
黒川創『かもめの日』(新潮社)
 毎日新聞にも大型の書評が載っていたが、こちらのほうが書評としてはよくまとまっていると思う。太宰の鴎というのは、あいつは唖の鳥なんだってね」という言葉から語り起こし、チェーホフの突き放した視線へと話をつなぐ。物語の梗概はあまり心を惹かないが、21世紀にチェーホフを意識する作家がどんなものを書くのかみてみたい。なにしろ、チェーホフは世紀転換期の作家だから。

桜庭一樹
エイミー・ベンダー『わがままなやつら』(菅啓次郎訳 角川書店
 この書評も、「“幻視者の文学”を求めるとき、わたしはどうしても、大国より小国、都会より地方都市で育った作家に、より多くの期待をしてしまっていた」という言葉で始まり、魅力的な流れをつくっている。

☆福田慎一評
白川方明『現代の金融政策』(日本経済新聞出版社
 くりかえされるチェンジの末、選ばれた日銀総裁の書いた本。それだけで興味をそそる。

☆書評委員評
江畑謙介『軍事とロジスティクス』(日経BP社)
 仕事で若干物流にもかかわることから、興味をもたざるを得ない本。「年収アップの方法」など、直球のビジネス書が多い中、これだけ迂遠なビジネス書を出す日経、そしてとりあげる書評はすごい。