21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

Alaa Al Aswany "The Yacoubian Building"(1)

"Would you be willing to write disclaimer?"
"A disclaimer?"
"That's right. I'll agree to publication if you write a disclaimer in your own handwriting condemning what the hero of the novel says about Egypt and the Egyptians."
"Very well."
(Preface)

 夏休みにエジプトを旅行したのだが、その収穫の一つがアレキサンドリア図書館のミュージアム・ショップで出会った、エジプト文学の英訳だった。エジプトはNaguib Mahfouzというノーベル賞作家を輩出しているものの、それほど日本語訳があるわけではなく、まず日本でエジプト文学に触れる機会などない。
 ただし、ありがたいことに、カイロ・アメリカン大学の出版部からは多くの英訳が出ていて、その気になれば英語でこれらの作品に親しむことができる。さすが大学出版局だけあって、巻末には用語集やコーランからの引用の一覧まで出ていて、便利なことこの上ない。この本の作者、アラ・アル・アスワニ(こういう日本語表記でよいのかどうかは分からない)は1957年生まれ、歯科医を生業としている彼が、エジプトの政治を皮肉った小説を出版するためにはかなり多くの障壁があったようだ。(もちろん、「主人公の考えは自分の考えとは違います」などという書付けを提出しただけでは、彼の作品は出版には至らなかった)。このあたり、私がむかし専門としていた、ロシア(ソビエト)文学の歴史を思わせる。
 この本の「まえがき」では、書くたびに評論家には高く評価されるのだけれど、自費出版以外では出版してもらえなかった彼の本が、ヨーロッパで翻訳されベストセラーになるまでの過程が、わりと自慢げに書かれている。これ自体が物語としてけっこう面白いのだが、本篇はもっと面白いので、次回以降はそのあらすじについてわりと詳しく書くことにする。

The Yacoubian Building, translated by Humphrey Davies, The American University in Cairo Press, 2006