21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

村上春樹『1Q84』 BOOK1第9章「(青豆)風景が変わり、ルールが変わった」

もし人生がエピソードの多彩さによって計れるものなら、彼の人生はそれなりに豊かなものだったと言えるかもしれない。(第8章)

さて、日本で話題になっている、のかどうか本当のところは見てないから定かではないが、とにかく『1Q84』を借りることができた。面白い。ふたつの物語が並行しながら交錯するところなど、村上春樹のいちばんおもしろい小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が踏襲されていて、おそらく面白い小説を書こうとして書いたに違いないのだ。『東京奇譚集』に心の底からがっかりした身としては、なんとなく身勝手にも安心してしまう。
 ふたつの物語は、理由のない暴力をふるう男ばかりを殺す殺人者「青豆」と、不思議ちゃん女子高生の書いた小説をリライトして売り出そうとする「天吾」の物語のそれぞれだが、誰の目にも明らかなのは、これでもか、と言わんばかりの実名の登場だ。天吾の出た大学は、「筑波大学第一学群自然学類数学主専攻」と明記されるし、普段、読売新聞を取っている青豆が図書館で読むのは毎日新聞の縮尺版だ。さらには実在の宗教団体を思わせる団体や、そもそも17歳の女子高生に芥川賞を取らせようとするたくらみなど、ともかく「現実っぽさ」が強調される。同様の手法として頭に浮かぶのは、原籙のきわめて出来の悪いハードボイルドくらいだ。
 こうして、1984年の日本のパラレル・ワールド、あるいはパロディである「1Q84」は、かなり偽悪的に提出されている。それでどうなのかは、先を読まないと書けないが、ところで1984年に新宿の中村屋でリングイーネが食べられたのかどうかは気になるところである。

(『1Q84』 新潮社)