21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

安藤元雄・入沢康夫・渋沢孝輔編『フランス名詩選』 17「みずうみ」

「おお、時間よ、飛翔をとどめよ。おまえたち、
幸福の刻一刻よ、あゆみをとどめよ。
わたくしたちの一生でもっとも美しい日のつかのまの愉悦を、
心行くまで味わわせておくれ。

(アルフォンス・ド・ラマルチーヌ「みずうみ」)

カタログとか、名詩選とかを編む仕事は、さぞかし愉しいだろうな、と思う。ましてや、とりあえず誰でも知っているような大詩人の一篇を捨てて、忘れ去られた詩人の佳篇を拾う作業は、きっと「してやったり」感に満ちたものだろう。
 そんななかで、ラマルチーヌの「みずうみ」などという、比較的有名な一篇をわざわざここで拾わなくてもよさそうなものだが、美しい詩ばかりの中でも、どうにもこれは目につくのである。「恋愛の幸せよ過ぎ去るな」、という凡庸すぎるほどの感傷に、ささやかな輝きを与えているのは、ひょっとすると冒頭の引用に続く身勝手な一節かも知れない。

地上には、おまえらを切に求める不幸な者が十分にいる。
彼らのために、流れるがよい、流れるがよい。
彼らの日々と一緒に、彼らを貪り食らう心労を奪っておやり。
幸せな者のことは、忘れておくれ。

(『フランス名詩選』 岩波文庫