21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

M.ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』第Ⅰ部あらすじ

【1】1「見知らぬ男とは口をきくべからず」から、3「第七の証明」まで

「よく覚えておいてください、イエスは存在していたのです」

 ある異様に暑い春の日、無神論ベルリオーズと詩人イワンの前に現れた外国人ヴォラントは、外国人にしては完璧なロシア語を話していた。黒魔術の専門家と名乗り、イエスの実在と、ベルリオーズの予定された死を宣言するヴォラントは、イエスに死刑を宣告したポンティウス・ピラトの物語を語りはじめる。ベルリオーズとイワンはヴォラントを狂人と思い、かれの言うことを何ひとつ信じないが、「悪魔の存在を証明してみせる」というヴォラントの言うとおり、ベルリオーズは電車に首をはねられてしまう。

【2】4「追跡」から、12「黒魔術とその種明かし」まで

「そうすると、このわたしは何者になるというわけだろう?」

 ベルリオーズの死から、モスクワの地平は歪みはじめる。犯人であるヴォラントを追って、消える通訳、バスに乗る猫などに悩まされながらも、イワンはモスクワの街をかけめぐり、他人のアパートに忍び込んだり、ついにはモスクワ河に跳びこむ。正気とは思えぬ姿になった詩人は、文壇仲間の集まるレストランでヴォラントの脅威を訴えるが、狂人として精神病院に連行されてしまう。
 イワンが病院の中で二人のイワンへと分裂していくなか、ベルリオーズの取り巻きたちには悪魔たちの手が忍び寄る。赤毛の巨漢アザゼッロと、人語を操る雄猫ヘゲモートによって、ベルリオーズの住むアパートは収容され、アパートの住民組合長ボソイは、通訳コロヴィヨフの奸計にかかって外貨不正所持の疑いで連行されてしまう。
 そんななか、ベルリオーズの同居人、リホジェーエフが支配人を勤める「バラエティ劇場」では、ヴォラント一味による黒魔術の一大ショーが開催され、司会者の首が飛び、ルーブル紙幣が宙を舞い、無償で配布される豪奢な装飾品に婦人たちが熱狂する夜が、モスクワの街そのものを狂わせていく……

【3】13「主人公の登場」から、18「不運な訪問者たち」まで

「彼女はいぶかしげにわたしをみつめましたが、そのとき突然、まったく思いがけずに、これまで自分がずっと愛しつづけていたのはこの女にほかならない、とわたしは理解したのでした!」

 二つに分裂し、無神論者の古いイワンから、悪魔の実在を信じる新しいかれへと変貌を遂げるイワンの病室を訪ねたのは、文壇という名の2ちゃんねらーにブログを炎上させられ、名前を失った作家「巨匠」だった。(真面目に書くなら、イエスとピラトは実在する、という小説を書いた「巨匠」が、ソ連の文壇からボコボコに批判され、巨匠は失意のうちに自らの小説を火にくべた)。巨匠はポンティウス・ピラトに関する小説と、運命の人マルガリータに対する愛を熱っぽく語りはするが、心を病み、世を捨てた自分のには、もういちどそれらの元へもどることはできないと、病院でひきこもりになることを宣言する。イワンは(または読者は)このとき、ベルリオーズや、悪魔たちの攻撃を受けている連中が、巨匠を批判した者たちに近い人びとであることを知る。
 かくなる間も悪魔たちの攻撃は続き、モスクワの夜は混迷を極めていくが、そんななか、巨匠の小説の一部分、ヨシュア(イエス)の処刑をまのあたりにして神を呪おうとするレビ・マタイの物語が挿入される。ヨシュアを救おうと奔走し、失敗して神を呪うマタイの物語と、復讐されるべき者たちの外部へと侵食する悪魔たちの狂乱は交錯しながらも平行線をたどり、そして読者は作者によって、もうひとりの主人公の下へと導かれる。

わたしにつづけ、読者よ。まぎれもない真実の永遠の恋などこの世に存在しない、などと語ったのはいったい誰なのか。嘘つきの呪わしい舌なんか断ち切られるがよいのだ。