21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

鹿島茂『パリ・世紀末パノラマ館』

これは、おそらく、百年単位で意識を切り替える思考法になれているヨーロッパの人間たちでも、ひとつの世紀に対して総括を出すのに世紀末の十五年を要するばかりか、そこから新しい世紀を生み出す準備にまた十五年を必要とするということをいみするのではないだろうか。(プロローグ)

 この本は先だってのパリ出張のときに、飛行機のなかで読もうと思って本の山から発掘したのだが、なんだかこのときは、『寒い国から帰ってきたスパイ』を読んでしまったので(シチュエーション的にそのほうが良いかと思って)、読みかけで放り出しておいた。ただ、若干でも土地勘がでてから読んだほうが面白いかもしれない。私の勝手ないいわけかも知れないが、たしかに観光するヒマなどなかったものの、ホテルの近くにあった「トロカデロ」が登場するだけでうれしくなる愉しみはある。
 一方で、こういう「うんちく本」は通し読みすると疲れるのもまた事実。とくにこの本は、各所に書いた原稿をまとめたものらしく、内容は多岐に渡っているものの、鹿島茂ファンであればあるほど同じネタを読まされる、という難はある。
 ただ、この本のなかで鮮烈に記憶に残ったのは、「ベル・ジャルディニエール」という既製服の店のポスターと、何よりもその店名だ。男性用の背広を売る店なのに、「美しい女庭師」という名前。関連性ゼロのなかにうかびあがるたしかな連想。宣伝としてこれほど美しいものはないだろう。