21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

今月読んだ捨ておけぬ三冊(8〜10月編)

 なんか、このコーナーも続きませんね。やっぱり月末は忙しいのか。とりあえずまとめて更新です。

8月
佐藤優『自壊する帝国』、桐野夏生東京島』、ミシェル・テマン『Kitano per Kitano 北野武による「たけし」』(松本百合子訳)

 『自壊する帝国』に関しては、「100パーセント好き!」とも言い切れないのだけれど、やはりモスクワに住むものとして、普段感じていることを明快な文章で書いてくれたような爽快感を覚える。つまりは価値観の軸を失った人のありようについて。『東京島』は、ただ単にひたすら面白かった。食パンのシーン(というか記述)は、『イワン・デニーソヴィチの一日』のパンに匹敵すると言ってもいいのではないだろうか。『Kitano per Kitano』は、日本人の目からするともうすこし踏み込んでほしいのだが、この本の存在そのものを評価する、という点で。
 ちなみにこの月『巨匠とマルガリータ』も読み終えたのだが、およそ3箇月くらいも読んでいたし、いまだ「読み切った」感がないので外した。

9月
伊藤計劃虐殺器官』、古井由吉『人生の色気』、ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』(宇野利泰訳)

 『虐殺器官』は確実に、「今年の私ベスト」に入る。こんな本が出版されているなら、もっと日本にいて新刊を追いかけなきゃあ、と思う。まあしかし、思い返せば話は実に面白くない。登場人物がどのような運命をたどるかとか、まったく興味が持てない。ストーリーも、「どうせこうなるんでしょ?」と思うとおりに展開する。しかしながら、ページをめくる手を止めることができない。とても斬新な体験だった、というしかない。
 『人生の色気』で、「古井由吉千本ノック」をはじめてしまい、もちろん古井作品はすべて読み応えがある内容なので、それで更新が滞っているのかもしれない。とりあえず、すでに読了した『杳子・妻隠』、『辻』について書いて、未読の『夜明けの家』、『仮往生伝試文』を読み、『白暗淵』、『野川』、『詩への小路』を読み返して、正月に日本に帰ってからAmazonで届いているはずの『やすらい花』と『ロベルト・ムージル』を読んだところで、いちおうのフェア終了としたい。ところで、この10冊くらい同じ作家の本を読み続けるのは、私の読書スタイルにあっているかも知れない。ブログの読者は飽きるか知れない。
 『寒い国から帰ってきたスパイ』は、「そうだよね。物語ってこうだよね」、と確認しながら読んだ。つまりは、登場人物がどうなっていくのか気になった。

10月
古井由吉『木犀の日』、鴻巣友季子『やみくも 翻訳家、穴に落ちる』、佐藤亜紀ミノタウロス

 『木犀の日』では、「眉雨」「夜はいま」「秋の日」あたりが好きだ。時代を横断して古井由吉の短篇を読めるという点で、この短篇集は重宝する。
 10月はほとんど『槿』を読むのに費やしたと思うが、「読書メーター」によれば読了が11月2日らしいので。合間に読んだなかでは上記の2冊。『やみくも』は面白いけれど、もうすこしボリュームが欲しい。読み足りない。『ミノタウロス』は、やはり兄のキャラクターがもうすこし立っていたら抜群だったと思う。