21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

今月読んだ捨ておけぬ三冊(11月編)

 なんだかモスクワの11月というのは、ほんとうに厭な月で、毎回、鬱になることこの上ないのですが、それでも色々本は読んだようで。また、時間はないくせに、フランス語の勉強をしてみようとか、ロシア語で本を読んでみようとか、試してはみているのですが、続かなかったりもして、なんだかいやーな汗をかきます。

古井由吉 『辻』

 実はずいぶん前に買って、すこし読んで、放り出していた本なのだが、もういちど読み返してみれば、そのバランス感覚のよさ、ストーリーテリングのうまさに感服する。とくに「雪明かり」は短篇として完璧だと思う。物語はセリフのある主人公たちの中だけにはなく、ただすれ違っただけの男の中にもひそんでいる。

Elfriede Jelinek "The Piano Teacher"

 オーストリアノーベル賞受賞作家による小説で、5月にウィーンを旅行したときに英訳本を買った。そんなことを感じる自分が倫理的にどうかと思うが、けっこうラストシーンが好きだ。母親と共生関係にあり、ピアニストを目指したものの大成せず、ピアノ教師をしているErikaに、年下の弟子Walterがストーカーめいた思いをかきたてていく。恋愛経験のないErikaと、どうやらけっこうモテるらしいWalterの対比が悲惨さを描き出す。

ロベルト・ムージル 『愛の完成・静かなヴェロニカの誘惑』

 奇しくもこれもオーストリアものだが。短い本なので、書きたいことはそれぞれの記事にすべて書いたような気もするが、どちらが好きかと言われれば「愛の完成」のほうである。この短篇は、ある種、気楽な生き方を教えてくれているのかも知れない。

その他、ややこしい本を読む気力がないときに何冊かミステリものを読んだのですが、横山秀夫第三の時効』はおすすめです。なんか、ジャンプマンガみたいな要素もありますが。