21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

古井由吉『杳子・妻隠』 「妻隠」

なんだか魂が、というより軀の感じが軀からひろがり出て、庭いっぱいになって、つらくなって、それからすうっと縮まって軀の中にもどってくる。おもての物音をつつんで、すうっと濃くなって入ってくる。そのたびに金槌の音だとか、男たちのだみ声だとかが、庭で立ったかと思うとすぐに軀の奥にこもって、びいんびいんと響き出す。(235ページ)

 今日はあくまでメモ書きである。(いつもはちがうのか、と言われれば返す言葉もないが)。「妻隠」は、漱石の『門』のパロディだと思う。と、すれば「杳子」は『三四郎』に『それから』をかねているのかも知れない。
 『槿』を『こころ』だと言うにいたっては、飛躍がはなはだしく、それだけに我ながら気に入った妄想だが、妻と二人で家の中にひきこもっている、という共通点だけで『門』というのは、安易だと自分でも思う。しかし、古井由吉は創作にあたって漱石を意識している。そういえば、『漱石漢詩を読む』という著作もあった、といえば牽強付会をみずから印象づけているようでもあるが。
 いずれにせよ実証には漱石を読み返さねばなるまい。