21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

F.カフカ 『審判』 第六章

 朝起きると、雪が積もっているというのは、それなりに快いものだが、日付が変わって帰る道で雪に降られるというのは、なんとも嫌な感じである。さて、ねむくもあるし、手短に書こう。
 『審判』の第六章はひとつの転機である。銀行で勤務中のKのもとを、田舎から時々やってくる叔父が訪れ、Kも(読者も)現実のものだか何だかよく分からなくなっていた訴訟について尋ね、やたらと心配する。身近なものに心配され(あるいはおせっかいを焼かれ)ることによって、忘れようかと思ってきた訴訟がにわかに現実味を帯びる。ここで、『変身』のザムザも感じた係累の重みに思いをめぐらせてみたり、または第五章の監視人たちに官僚批判を感じてみたりするのは、あまりにも紋切り型で俗悪なようだが、『審判』のようにとっつきにくい、木製からくり細工の小説にとっかかるには、そんな俗悪な過程も必要なのかも知れない。親戚の叔父は、Kを弁護士のもとへ引っぱって行き、「ああやはりこの人は訴えられていたのだ」、と改めて感じさせるが、その弁護士が病気だったり、あげくの果てにはイワン・カラマーゾフの悪魔を思わせる第四の登場人物が部屋の隅から現れたりするのを見ると、またぞろ世界は現実感を失う。第七章では、追い討ちのように弁護士が無意味な長広舌をふるうのだ。さて、どうすればこの小説の世界に入りこめるのだろう?

「やっとあやつり人形めが出て行きおった。さあこれでわしらも出て行けるぞ。」(142ページ)

(ちょうどページヴューが100でした。ところで「クッツェー」には貼られるのに、「カフカ」にはリンク貼られないんですね。不思議な感じです)