古今亭志ん朝『志ん朝の落語Ⅰ』 「真景累ヶ淵 豊志賀の死」
「へえ。あっしらァね、長年商売(しょうべえ)だからわかるんですよ、ええ。乗ってますよ、肩にきますから、へえ。うーっと、あれ? はあ?…気のせいだ、へえ…。ふうん、乗ってませんね」
いちおう関西人なもので、落語といえば米朝一門なのだが、たまには江戸のものもいいものだ。日本語に飢えている身としては、たとえ文字で書かれた噺でも身にしみこんでくる。
しかし、この巻が「男と女」にテーマを絞っていることもあるだろうが、ここに出てくる噺はみょうに生々しい。とくに40歳の豊志賀と20そこそこの新吉が初めて関係を持つところ、わかいお久に豊志賀が嫉妬し、できものをかきむしってできた病がひどくなっていくところ、そして新吉とお久さんのみじかい逢瀬。ともかく肉体的にリアルに響き、性欲・細菌・心臓の鼓動がそれぞれうごめいているようである。
日本はいま空前の「漫談」ブームだと思うが(半年くらい離れているから実は知らないが……)、そんな漫談を(YOUTUBEで……)聞いていても、上方の笑いはもうすこし戯画化をむねとしている気がする。どちらがいいというものでは、ないのだけれど。