21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

古今亭志ん朝『志ん朝の落語Ⅰ』 「真景累ヶ淵 豊志賀の死」

「へえ。あっしらァね、長年商売(しょうべえ)だからわかるんですよ、ええ。乗ってますよ、肩にきますから、へえ。うーっと、あれ? はあ?…気のせいだ、へえ…。ふうん、乗ってませんね」


 いちおう関西人なもので、落語といえば米朝一門なのだが、たまには江戸のものもいいものだ。日本語に飢えている身としては、たとえ文字で書かれた噺でも身にしみこんでくる。
 しかし、この巻が「男と女」にテーマを絞っていることもあるだろうが、ここに出てくる噺はみょうに生々しい。とくに40歳の豊志賀と20そこそこの新吉が初めて関係を持つところ、わかいお久に豊志賀が嫉妬し、できものをかきむしってできた病がひどくなっていくところ、そして新吉とお久さんのみじかい逢瀬。ともかく肉体的にリアルに響き、性欲・細菌・心臓の鼓動がそれぞれうごめいているようである。
 日本はいま空前の「漫談」ブームだと思うが(半年くらい離れているから実は知らないが……)、そんな漫談を(YOUTUBEで……)聞いていても、上方の笑いはもうすこし戯画化をむねとしている気がする。どちらがいいというものでは、ないのだけれど。

(『志ん朝の落語Ⅰ 男と女』 京須偕充編 ちくま文庫