21世紀文学研究所

1サラリーマンの読書日記です。

2010-02-14から1日間の記事一覧

古井由吉『山躁賦』 「鯖穢れる道に」

なにかいいことがありましたか、と宿の主人にたずねられて苦笑させられた。言われるとなにやら肌が穢(な)れて臭(にお)うような気おくれがした。旅行も四日目になればこんなものだ。勝手に遊んでいれば心身がおのずからぐったりと、たがいに馴れあう。(1…

大塚和夫責任編集『世界の食文化10 アラブ』第一章一「歴史的シリア」

数あるスフィーハの中でも絶品なのは、レバノンのベカー高原のバァルベックで作られる「スフィーハ・バァルベキーエ」である。パン生地は直径五センチほどの丸い形にまず分けられるが、真ん中に塩と香辛料の下味が付けられたヒツジの挽き肉とトマトとタマネ…

カズオ・イシグロ『夜想曲集』 「降っても晴れても」

「エミリが知ったら、おまえは金玉鋸挽きの刑だ」(70ページ) 読んでいて疲れる短篇と、疲れない短篇とあると思うのだが、カズオ・イシグロの『夜想曲集』はそれを交互にくりかえす形でできていて、この「降っても晴れても」は疲れる方に属する。べつに疲れ…

J.コルタサル『悪魔の涎・追い求める男』 「パリにいる若い女性に宛てた手紙」

夢だということは自分でもよく分かっていた。ただ、あの匂いだけがなじみのない、なにか異質な、夢の中の遊戯と関わりのないものに思えて、彼をひどく苦しめた。(「夜、あおむけにされて」) いささか暴走気味だということは自覚しながら、書けるときに全部…